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第21回労働行政研究活動中央レポート
今日の労働者のおかれている実態と労働行政が果たすべき役割


【目次】

はじめに

第1章 全労働の行研活動の到達点と第21回行研のとりくみ
1.全労働の労働行政研究活動の到達点
2.第21同行研の意義と目的
3.第21同行研の具体的とりくみとその結果

第2章 アンケート結果にみる労働者のおかれている実態
1.アンケート結果にみるリストラ・「合理化」の実態
2.アンケート結果にみる離職者の状況と意識
3.進まない労働時間の短縮
4.「残業規制」とサービス残業
5.過労死に対する不安と健康管理
6.女性労働者の労働の実態

第3章 財界の推し進める労務戦略と労働行政
1.財界の推し進める労務戦略
2.労働者の願いに背をむけ、財界の労務戦略を後押しする労働行政

第4章 労働行政の役割をめぐる労働団体や学者・研究者などの論議や政策提言等の動向
1.財界・政府を後押しする論議とその特徴
2.「規制緩和」や労働基準の弾力化を批判し、労働者保護と規制拡充を求める意見
3.「規制緩和」の本質を鋭く突くマスコミ論調
4.労働団体や労働弁護団などから相次ぐ「規制緩和」批判や労働行政への政策提言
5.労働法制をめぐるILOなどの動き

X 今日における労働行政の果たすべき役割
1.私たちの考える労働行政と労働法制の存在意義
2.アンケート結果などにみる今日の労働者が置かれた労働と生活の実態およびその改善方向

3.今日における労働行政が果たすべき役割

 

はじめに

1990年の後半から始まり戦後最悪といわれる今次不況は、94年9月の政府による「景気は緩やかながら回復の方向へ」という宣言にもかかわらず依然として深刻な状況が続き、政府統計による1995年平均の完全失業者数は210万人、完全失業率が3.2%となり失業率は1953年の調査開始以来最悪の数字を記録しています。このような中で、不況・円高を口実にしながら大企業は大規模なリストラ「合理化」を強引におしすすめ、労働者や下請け企業を犠牲にしながらいっそう利潤を増大させています。
このようなかってない規模での企業のリストラ「合理化」攻撃のもとで、民間の各職場では、賃金抑制、成績主義・能力主義の強化と年功賃金の見直し、終身雇用の形骸化とひとべらし「合理化」、出向・配転の常態化、管理職を含む中高年の切り捨て、女性や高齢者などにみられる不安定雇用労働者の拡大、超過密労働とサービス残業の横行、思想・組合差別などがすすみ、度重なる権利侵害により働きがいが奪われ、性別・年齢、階層を問わず、すべての労働者が仕事と職場の将来に対し不安をいっそう大きくしています。
一方、労働者の雇用や労働条件をめぐるこのような矛盾の広がりにもかかわらず、労働行政の諸施策は、後述するように真に労働者保護のためにその役割を果たしているとは言えず、むしろ大企業を中心とする企業のリストラ・「合理化」や財界が主張する規制緩和要求に呼応するかたちで展開されており、雇用調整の支援、有料職業紹介事業や労働者派遣事業の適用対象職種・業務の拡大、労働契約法制の見直し、裁量労働制の適用範囲の拡大、女子保護規定の緩和の検討に見られるように、労働条件の悪化をいっそう促進する方向での動きを強めています。
したがって、今日の労働者が各職場で実際にどのような状況に置かれ、労働行政に何を求めているのか、労働行政が真に労働者・国民のための行政として機能するためにどのような役割を果たすべきか、こうした点の解明は行政民主化の観点から急務の課題であると同時に私たち自身の働きがいの問題としても重要です。
第21回労働行政研究活動は、このような問題意識のもとに全国の仲間の手ですすめられてきました。本中央レポートは、1995年12月6〜8日に開催された全国集会をはじめとする全国的な討論によって補強されたもので、あらためて全国の仲間の奮闘に感謝します。
なお、中央レポー卜の構成は次のとおりです。
第1章では、全労働の労働行政研究活動の到達点をあらためて確認した上で第21回行研渚動の意義や目的、とりくみの概要等について述べています。
第2章ではアンケート結果にもとづいて「今日の労働者の置かれた実態」の特徴点を分析しています。ここでは、アンケートの共通部分を中心に雇用調整の実態や労働条件をめぐる全般的な状況について明かにするとともに、職域ごとの観点にもとづく諸問題を明かにしています。
第3章では、これらの諸問題を生じさせている財界の労務戦略とこれに追随する労働行政や労働諸法制の動向について諸資料をもとに分析・批判しています。
第4章以下では、以上の分析を踏まえて、「今日の労働者が置かれた実態」をめぐる諸問題とこれを解決するために労働行政が果たすべき役割等について総括的に明かにしています。

第1章 . 全労働の行研活動の到達点と第21回行研のとりくみ

1.全労働の労働行政研究活動の到達点

全労働は1960年に第1回の労働行政研究集会(中央集会)を開催して以来、真に労働者国民のための労働行政の確立をめざして、今日まで20回にわたり行政研究活動を展開してきました。
全労働の労働行政研究活動は、初期の段階では、中央集会での個人や少数グループによる研究報告を中心とする活動にとどまっていましたが、その後回数を重ねるにしたがい、単なる政策や業務の批判・暴露にとどまらず、たたかうべき課題を明らかにし、勤労国民との共闘の場で、実践的にその課題にむかってたたかう努力を積み重ねてきました。
1975年の全労働第18回定期大会では行研活動の強化にむけて、「行研活動と行政民主化闘争との実践的結合を重点課題とし、研究活動を『机上研究』や『企業内研究』にとどめず地域の労働者、民主勢力、市民団体等と大胆に交流し・・発展させる」として「行政酷書」運動を提起しました。この行政酷書運動は、その後の「これが労働行政だ(労基署・安定所職員の手記から)」(1976年)へと発展し、社会的反響を呼びました。
こうした到達点を踏まえて、全労働第19回定期大会では、行政研究活動の抜本的強化の方針が決定され、中央行政研究推進委員会を設置して具体的方針を検討しました。その具体的方針の特徴は、(a)全支部・全分会で統一したとりくみを展開することを打ち歯したこと、(b)全労働の特性を活かした調査活動を提起し実証的研究を中心にすえたこと、(c)行研活動の成果を行政民主化闘争に着実に活かしていく方向を明確にしたこと等にあります。そして、これらの方針のもとにとりくまれた第15回行研活動では、中高年齢労働者や労災職業病等の課題を統一テーマとして設定し、アンケート調査、座談会、訪問調査活動等をとりくみ、労働者、民主団体、研究者との間で交流と研究がすすめられました。
その後の行政研究活動もこのような活動スタイルが引き継がれ、第16回から第18回行研活動では、中高年労働者、労災年金受給者、パート労働者、派遣労働者等の諸問題を全国全組織でとりくみ、行研活動は飛躍的な前進をとげました。
第19回行研活動では、それまでの活動の成果と到達点を踏まえ、運動の原点である職場でのとりくみを重視し、「労働行政の現状と問題点・その果たすべき役割(その1)」をメインテーマとし5つの関連するサブテーマを設定して斉支部が独自性・地域性により選択する方法をとりいれ、日常業務に根ざした研究の方向を明らかにしました。そして、前回の第20回行研活動は、「労働行政の現状と問題点・その果たすべき役割(その2)」をメインテーマとし、雇用保険制度、助成金制度、高年齢者の雇用問題、労働時間法制、労災補償等の諸問題をサブテーマとして研究活動を展開しました。
一方、この間、労働者・国民の立場にたった労働政策を確立する活動も着実にすすめられ、学者・研究者との共同による「労働政策研究会」の報告(1983年)が発表され、また職場代表による検討・対策委員会が設置されて、職業安定、監督、安全衛生、労災、婦人少年の各行政分野ごとの政策づくりが行われました。さらに、これらを集約して、「民主的労働行政実現のための全労働の提言(案)」(1984年)が発表されました。また、第20回行研活動を引き継いだとりくみとして本年3月には「過労死等問題検討委員会報告」(1995年)が発表されるなどこれらの活動は行政民主化のとりくみを前進させる上で大きな役割を果たしてきました。
こうして全労働の行政研究活動は、過去20回にわたる活動を通じて、アンケー卜調査、支部行研集会、シンポジウム、座談会の開催等による全組合員参加の活動として定着するとともに中央・地方において他の労働組合や学者・研究者等民主的諸勢力との交流や共同のとりくみを発展させ、労働行政民主化の運動を広範な運動へ前進させるための役割をはたしているといえます。また、研究活動をつうじて職場の仲間が行政をみつめ直し、「仕事そのものがたたかいの課題」であることを認識するとともに、研究成果のうえにたって、種々の政策提言や当局への申し入れを行い、民主的業務運営や労働条件の改善においても一定の役割を果たしています。

2.第21回行研の意義と目的

第21回行研は、1993年7月に第1回中央行研推進委員会を開催して以降、支部意見の集約もはかりながら基本的観点や研究テーマ、とりくみ等について検討を重ね、1994年4月の支部担当者会議及び同年6月の第86回中央委員会を経て「第21回労働行政研究活動推進要領」を作成し具体化をはかってきました。

(1)第21回労働行政研究活動の基本的観点

第21回行研は、これまでの20回にわたる行政研究活動の到達点とその成果のうえにたって新たな成果をめざし、以下のことを基本にとりくみをすすめてきました。
(a)今日の労働者の置かれた実態と労働行政の問題点を明かにし、労働者、国民本位の行政とするための改善方向を明かにするようとりくみました。
(b)産業構造の変化や高利潤体制の新たな構築をめざす企業のリストラ「合理化」の推進に対応し、労働法制の改悪や労働政策の転換がすすめられています。今日の労働行政の変化が職場の日常業務のなかにどのようにあらわれているのか、分析・検討を行うなかで、労働行政の変化の実態を明かにするようとりくんできました。
(c)研究活動にすべての組合員が参加することを追求しました。研究活動への参加をとおして、行政民主化のたたかいを職場に根づかせ、日常業務のなかで、労働者、国民のための労働行政を追求し、なかでも次代を担う青年が労働者、国民の立場にたって正しく見つめ、批判できる力を培うことを重視してきました。
(d)すべての支部、分会で推進体制を確立し、職場のなかに行政民主化の議論をまきおこし、研究活動の成果を全体の合意のもとに、職場で実践するとりくみを重視してきました。
(e)地域の住民や労働者の生活と労働行政のかかわりに目をむけ、共同のたたかいを重視しました。

(2)研究テーマ

第21回労働行政研究活動のテーマは「今日の労働者の置かれている実態と労働行政が果たすべき役割」としました。
テーマの設定にあたっては、93年9月に行った「第21回行研活動アンケー卜」の支部意見をふまえ、日常業務に関連した身近な課題をとりあげつつ、専門性を生かしたより深い分析、検討を行い、同時に労働行政の今日的な課題に応え得る内容となることを重視しました。
不況の進行のなか大企業がリストラ「合理化」を強行するもとで、中小零細企業の経営の維持、雇用の確保も困難をきわめています。また、不安定雇用労働者の打ち切り、解雇、配転、出向、一時帰休等の人減らし「合理化」、労働条件の切り下げがすすんでいます。
このような、企業の雇用調整の状況、労働条件の変化、離職の原因、就職にあたっての希望、労働時間、健康管理状況など労働者の生活と労働がどのような状況にあるのかを直接私たちの手で明らかにし、労働行政に何が求められ、どのような役割をはたしているのかをさぐり、改善方向を明らかにするためにこのテーマを設定しました。

3.第21回行研の具体的とりくみとその結果

第21回労働行政研究推進要領にもとづき、各支部では支部行研推進委員会を設置し具体的とりくみを展開してきました。主なとりくみは次のとおりです。

(1)アンケート調査

「今日の労働者の置かれている実態と労働行政が果たすべき役割」を明らかにするための調査研究の中心的なとりくみとして、1994年9月から1995年1月までの期間、労働者、労働組合、事業場に対するアンケート調査を行いました。
調査内容は、企業がすすめる雇用調整や「合理化」及び労働条件の切り下げ等の広範な実態を明らかにすることを基本として、さらに、労働行政の各職域の専門性を生かすという観点から、私たちが直接従事している職業安定行政、労働基準行政、婦人少年行政等の各行政の諸施策に即して労働者の実態を把握するという立場をとり、「窓口にあらわれた労働者の実態と職業紹介・雇用保険制度のあり方」(職安職域)、「長時間過密労働と健康破壊・職業病の実態と基準行政の役割」(基準職域)、「女性労働者の現状と婦人行政の役割」(婦少行政)といった観点を設定し、4種類の調査票を作成しました。(巻末調査表参照)
また、アンケー卜調査は、全国の職安・基準・婦少の各行政職域で働く全労働の組合員が窓口での面接等により実施し、全国各地域の労働者・事業所・労働組合から回収したものです。
これら4種類のアンケート調査の調査対象・回収数等の内訳は次のとおりです。
(a)アンケート1(求職者アンケート)
調査対象⇒調査時点で安定所の窓口を訪れた受給者や一般求職者
回収数〜6,533件
(b)アンケート2(事業所アンケート)
調査対象⇒調査時点で安定所の窓口に求人申し込み、各種助成金の申請等に来所した事業所
回収数〜3,253件
(c)アンケート3(労働組合アンケート)
調査対象⇒各都道府県の労働組合名簿から任意に抽出した労働組合
回収数〜931件
(d)アンケート4(在職者アンケート)
調査対象⇒全国の監督署の来署者や組合員の友人・知人で民間事業場の在職労働者
回収数〜4,051件
なお、以上により回収した調査対象の属性別の内訳は表1〜表3のとおりです。

(2)組合員メモ活動

アンケート調査による労働者の実態の把握と同時に、全労働の組合員がみずからの業務を通して感じている労働行政の諸施策や業務運営に対する問題意識を記述するとりくみを実施し、支部レポートや中央レポートに反映しました。

(3)支部行研集会やシンポジウムの開催

アンケート調査や組合員メモを中心として作成した支部レポート(案)をもとに全国の各支部では組合員の参加による支部行研集会やシンポジウムの開催あるいは民主的諸団体に支部レポート(案)を送付して意見を求める等、学者・研究者・労働組合等の参加も得て、今日の労働者の実態と労働行政の民主化についての広範な討論を実施しました。現在までに行研集会が17支部で、シンポジウムが4支部で実施されており、今後の実施を計画している支部もあります。

(4)支部レポートと中央レポートの作成

各支部では、以上のとりくみや文献・資料等をもとに研究活動をすすめ支部レポートを作成しました。また、中央レポートに反映するため10月31日までに27支部から報告があり、現在までに37支部で支部レポートが作成されています。
中央レポートは、中央行研推進委員会において、アンケート結果の全国集計分の分析を中心として、支部から報告のあった組合員メモや支部レポートによって補強しながら作成しました。

第2章 .アンケート結果に見る労働者の置かれている実態

1.アンケート結果に見るリストラ・「合理化」の実態

1.企業の雇用調整の特徴(調査結果からみた企業における雇用調整について)

〜 人減らし「合理化」が大規模に実施されている
調査は、職業安定所の窓口に来所した求職者6,513人(男2,991人、女3,522人)と民間企業に在職中の労働者4,045人(男2,341人、女1,704人)、また職業安定所に来所した事業所3,253事業所、さらに労働組合931組合を対象に、アンケート記入方式により実施しました。求職者アンケート・在職者アンケートとも同様の傾向にありますがリストラ「合理化」の実態がより特徴的にあらわれている求職者アンケートを中心に分析することとします。
求職者アンケートによる、最近一年間に経験した雇用調整やリストラは、「人員削減、採用・補充中止」(29.7%)、「残業規制」(26.6%)の2つが柱となって、「希望退職・勧奨退職・解雇」(20.5%)、「配置転換・出向」(15.6%)、「労働時間制度の変更」(14.6%)、「賃金制度の変更」(12.9%)、「賃金の遅払い・不払い」(4.5%)、「一時帰休」(3.3%)等が様々な方法で実施されています。(図1)
業種別では、全般的に「製造業」での雇用調整の割合が高く(8項目中5項目で割合が第1位)、また、規模別では大企業ほど雇用調整の実施の割合が高く、しかも「残業規制」(1,000人以上で43.6%、以下同じ。)「人員削減、採用・補充中止」(37.1%)、「配置転換・出向」(27.1%)の3つが高率となっているのが特徴です。
事業所や労働組合アンケートでは、雇用調整やリストラ等について「行った」が(事業所34.6%・労働組合40.7%、以下の項目も同じ)で、「残業規制」(35.1%・38.7%)、「人員削減、採用・補充中止」(32.5%・34.4%)、「労働時間制度の変更」(14.5%・19.1%)、「配置転換・出向」(13.2%・20.1%)の順で割合が高く、規模別でも求職者アンケートの回答と同様に大企業ほどその割合が高くなっています。(図2)
長引く不況のもとで、雇用調整は業種、企業規模にかかわりなく、多くの企業において様々な形態で実施されています。こうしたことから、多くの労働者が労働条件の変更等を余儀なくされるとともに、家族の生活にも大きな影響を与えています。

2.労働条件の変化

〜 雇用調整のもとで労働条件は悪化
(1)労働時間の変化について求職者アンケートでは、「短くなった」(15.7%)に対して「変わらなかった」(72.6%)、「長くなった」(11.0%)の合計で83.6%に達し在職者アンケートでも2つの合計が80.9%を占めています。このように労働時間は変わらず、労働時間の短縮は進んでいません。(図3)
「長くなった」の割合の高い業種は、「運輸・通信業」(15.8%)、「卸・小売業、飲食店」(14.6%)、「ホテル・旅館業」(13.5%)等となっています。また、規模別では大きな特徴は見られませんが、年齢別では年齢が高くなるほど「短くなった」の割合が高くなっています。

(2)残業時間の変化について求職者アンケートでは、「変わらなかった」(55.0%)、「少なくなった」(29.3%)、「多くなった」(14.5%)となっています。(図4)
「少なくなった」の割合が比較的高い業種は、「製造業」(43.7%)、「電気・ガス業」(30.5%)、「運輸・通信業」(29.6%)、また、職種では「製造職」(45.1%)、「運転・通信」(31.7%)、「専門・技術職」(29.2%)、「事務職」(26.4%)となっています。
ここにも不況による雇用調整の柱として、「残業規制」が広く行われていることがわかります。

(3)賃金の変化について求職者アンケー卜では、「変わらなかった」(54.8%)、「高くなった」(27.2%)、「低くなった」(17.0%)で、「変わらなかった」又は「低くなった」が71.8%を占め、ここ一年間、ベースアップも定期昇給もなかったり、逆に賃下げとなった人もおり、「賃金抑制」の影響が出ています。(図5)
「低くなった」の割合を年齢別にみますと、「35歳〜44歳」(18.9%)、「45歳〜59歳」(20.6%)、「60歳以上」(22.6%)と年齢が高くなる程割合が高く、より「賃金抑制」の影響が大きくなっています。

(4)人員の変化について求職者アンケートでは、「変わらなかった」(46.2%)、「少なくなった」(42.8%)、「多くなった」(10.3%)と、人員削減が多くの企業で実施されています。(図6)
「少なくなった」の割合の高い業種は、「製造業」(47.4%)、「運輸・通信業」(44.9%)、「金融・保険・不動産業」(39.6%)、「卸・小売業・飲食店」(39.1%)、「ホテル・旅館業」(34.5%)で、また、規模別では規模が大きくなるのに比例して、その割合が高くなっています。
ここにも、長引く不況の下で業種や規模に係わりなく、多くの企業で「人員削減、採用・補充の中止」等の人減らし「合理化」が、大規模に行われている実態が浮き彫りとなっています。

3.労働強化の実態

〜 労働条件が大きく変わり、仕事が「きつくなった」
労働強化について求職者アンケー卜では、「変わらなかった」(52.7%)、「きつくなった」(40.1%)、「楽になった」(6.6%)と回答し、「きつくなった」の割合が3分の1以上を占めています。(図7)
「営業・販売職」「専門・技術職」「運転・通信」「サービス関係」「製造職」等の職種では「きつくなった」の割合が40%以上となっています。また、規模別では規模が大きくなるのに比例して、その割合が高くなっています。
「人員削減、採用・補充の中止」等の人減らし「合理化」が、大規模に進められ仕事量、密度ともにますます高まっています。このような労働実態のもとで、多くの労働者は仕事が「きつくなった」と実感しています。

4.労使協議の問題点〜様々な雇用調整が「手続きなしに一方的に」行われる例も

「事業所アンケート」では、雇用調整やリストラ等を行った事業所(1,127事業所)のうち、労働組合や従業員の代表との協議を、「十分に行っている」(51.9%)、「十分ではないが行っている」(32.8%)、「行っていない」(8.8%)となっています。
同じ設問の「労働組合アンケート」(379労働組合)では、「十分に行っている」(46.2%)、「十分ではないが行っている」(42.7%)、「行っていない」(9.2%)と、ほぼ「事業所アンケート」と同様の傾向となっており、十分、不十分を別にすれは多くの場合労便の協議が行われています。(図8)
しかし、「行っていない」との回答も134件(100人以上で65、1,000人以上で11)あり、こうした事業主の対応は正常な労使関係からも許されるものではなく、その責任が厳しく問われなければなりません。
企業がとった雇用調整やリストラ等への労働組合の対応は、「反対した」(20.8%)で、「やむなく承知した」(62.3%)、「賛成した」(11.3%)となっています。
一方、連合が昨年末から今年2月にかけて行った「雇用点検アンケート」の中間報告では、雇用調整が行われたところで、「交渉などあり」とする労働組合は75.8%、「交渉なし」が16.3%となっています。また、解雇について労働協約に何らかの規定があるという労働組合は61.9%に過ぎず、その内容でも「組合、本人との協議・合意」を定めているのは14.5%、「組合との協議決定」の33.8%を合わせても半数に満たない状況となっています。
配置転換や出向は、その当事者の意思が最優先されるべきことがらであり、「本人同意」は欠かせません。「組合との協議決定」だけでは組合が出向等を認めた場合、当事者はこれを拒否することは事実上できなくなってしまいます。企業が雇用言周整やリストラ等を行う場合、労働組合や従業員の代表との協議を行うことはもちろん、「本人の同意」が最低限確保されるべきです。

5.雇用調整や解雇に関する労働者の意識〜雇用調整や解雇は法律で規制を

「求職者アンケー卜」や「在職者アンケート」で、「配置転換や出向」を「した」とする者のうち、「同意の上で」は「求職者」(34.8%)、「在職者」(48.9%)、これに対して「会社から一方的に」は「求職者」(61.1%)、「在職者」(45.6%)にもおよび、かなり高い割合で本人の意思を無視した配転・出向が行われています。
しかも「求職者」(15.8%)、「在職者」(19.4%)が「転居を伴った」としています。不況下で企業が行う配置転換・出向などの雇用調整について、「しかたがない」が「求職者」(47.9%)、「在職者」(46.1%)、これに対して「法律で規制すべき」は「求職者」(17.6%)、「在職者」(22.8%)となっています。
一方、解雇については、「しかたがない」が「求職者」(27.0%)、「在職者」(23.6%)、「法律で規制すべき」が「求職者」(37.3%)、「在職者」(44.3%)となっており、「雇用調整」と比較して「法律で規制すべき」の割合が高く、「求職者」「在職者」とも「しかたがない」を上回っています。
「雇用調整」「解雇」とも「しかたがない」の回答の中には、「不十分な法制度」の下でこのような気持ちを持った人たちも少なくないと思われ、このような人たちも含めれば「法律で規制すべき」は大多数の労働者の切実な要求と言えます。(図9、図10)

6.雇用調整助成金の活用状況〜法的規制と一体で実効性確保を

「事業所アンケート」では、最近1年間に雇用調整助成金を「利用したことがある」が19.7%(641事業所)で、業種別では製造業、運輸・通信業等で多く、規模別では規模が大きくなるのに比例して「利用した」事業所の割合が高くなっています。
「雇用確保の効果」については、「大変効果があった」7.1%(「利用したことがある」を100とした場合35.7%)、「多少効果があった」10.9%(同54.9%)、「あまりなかった」「まったくなかった」の二つを合わせると1.8%(同9.4%)となっています。
同様の設問で「労働組合アンケート」では、「利用したことがある」が14.0%(130組合)で、「大変効果があった」「多少効果があった」を合わせると、「事業所」ほど高くはないものの8.7%(同49.3%)となり、「あまりなかった」「まったくなかった」を合わせた3.3%(同18.3%)を上回っています。(図11)
このように、事業所や労働組合は、雇用調整助成金制度が一時的には解雇や希望退職等を防ぐ「調整弁」として、一定の役割を果たしていると評価しています。しかし一方で、「組合員メモ」では「『失業の予防』という制度本来の目的を果たし得ていない」という意見も少なからず出されています。雇用調整助成金の受給期間終了後に雇用調整やリストラ、労働条件の切り下げ等が行われることのないよう法的規制が必要と思われます。
なお、雇用調整助成金制度に対する意見・要望(「事業所アンケート」から)は、「手続きを簡単にしてほしい」996事業所(30.6%)、「支給要件を緩和してほしい」628事業所(19.3%)、「助成金の支給額の引き上げ」576事業所(17.7%)の要望が事業所から出されています。また、一部の事業所からは指定業種の拡大を望む意見も出されています。

2.離職者の実態と意識

職安職域でのとりくみの重点は、現在の産業構造の変化やリストラ合理化の中での労働者の実態、とりわけ離職後に職業安定所の窓口にあらわれた求職者の離職理由について明らかにし、労働者の職場での実態について分析・検討することにありました。
調査は、職業安定所の窓口に来所した求職者6,533人(男2,991人、女3,522人・性別不明20人)を対象にアンケート記入方式により実施しました。
集計したアンケート実施者の年齢区分で見ると、25歳未満1,182人、25歳から34歳まで1,777人、35歳から44歳まで935人、44歳から59歳まで1,592人、60歳以上1,024人、年齢不明23人となっています。25歳から34歳台と、45歳から59歳台が比較的多い傾向を示していますが、全体的に見て各世代層の声を集約することができたものと思われます。

1.離職理由からうかがえる実態

全体的な離職理由の比率は「自身の理由」が54.7%といちばん多く、続いて「会社の都合」31.O%、「家族の理由」5.8%となっています。これを年齢別に比較すると図13になりますが、明らかに年齢が高くなるにつれて「会社の都合」による離職の割合が高くなり、逆に「自身の理由」による離職が減少しています。
また、「家族の理由」による離職は、各年齢層でほぼ同じ割合になりますが、「その他」が60歳以上で多く、「自身の理由」とほぼ同じ比率になっています。今回のアンケートではその内容を詳しく分析することはできませんが、離職にいたる経過は「とても一言では言い表わせない」ことを示しているのではないでしょうか。

(1)「会社の都合」で離職した人の分析
「会社の都合」で離職した2,026人の具体的な内容を見ますと、「解雇・希望退職」が745人となり、男性410人、女性335人といずれも30%強の高い割合を占めています。これに「会社倒産」を加えると40%強となり、ほぼ二人に一人が人員的な合理化の対象となったことによる離職といえます。(図14)
年齢別にこれを詳しく見ると60歳以上では「定年」が(57.5%)で半数以上であり、次いで「契約期間満了」(20.6%)、「解雇」(11.3%)となっています。これは現在の定年制の状況と、この年齢層の雇用形態にパート社員、臨時社員等の不安定な有期契約が多いことを映し出しています。
また、45歳〜59歳の層を見ると解雇(32.9%)、定年(15.7%)、希望退職(15.6%)となっています。ここで注目すべき点は「希望退職」がこの年齢層に集中していることです。(希望退職全体に対してこの年齢層が占める割合は58.2%)ここからリストラのひとつの方法である「希望退職者」の募集が中高年齢層をターゲットにしていることがうかがわれます。さらに、「定年」による退職も高い割合を示し、60歳未満の定年制度により多くの人が退職を余儀なくされていることもわかります。(図15)
職種や業種から見た特徴は「会社都合」で退職している人の割合が「製造職・業」で多くなっています。そのほかの質問項目全体を見渡してみても、明らかに「製造職・業」に対して、雇用調整のしわ寄せが集中していることがわかります。
業種別にみた場合、「会社の都合」の割合が全体で31%であるのに対し、「製造業」が38.6%、「建設業」が34.8%、「運輸・通信業」が33.6%と高くなっています。
さらにこれを「職制」で見た場合、「会社都合」で退職した人の比率は「管理職(部長以上)」で49.3%、「管理職(部長以下)」で45.1%、一般従業員で28.4%となっています。また「管理職(部長以上)」の「会社都合」の理由の中で「解雇」が25.3%も占めていることが特徴的です。
企業規摸別には、「会社の都合」による離職の割合はほぼ同じでが、企業規模が大きくなるほど、「残業規制」の割合が高くなっていますが、同時にサービス残業が増加している調査結果(4.「残業規制」とサービス残業の項を参照のこと)とも合わせて考えるならば実労働時間は短縮されず、むしろ人員の減少などともあいまって仕事がきつくなったと感じる人が増加している傾向がうかがえます。さらに配置転換や出向等の雇用調整も多く実施されています。これらのことから浮かび上がってくるのは、企業の「雇用調整」の対象は「製造部門」であり、またコストのかかる中高年層や中間管理職を中心に進められているといえます。

(2)「自身の理由から」退職した人の分析
全体的には、年齢が上がるほど、「自身の理由」が減少しています。若い世代が「自身の理由」でたくさん退職していますが、これを短絡的に安易な離職と結論づけるわけにはいきません。ここで、「自身の理由」をより具体的に見てみますと「その他」(23.1%)が目立ち、以下「賃金が低かった」「会社の方針」「労働時間が長かった」「上司や同僚との折り合い」「職業適性」などがあげられています。一般的には加齢とともに家族の生活を支える責任が重くなり、いったん離職してしまえば再就職は困難になります。そのために加齢とともに「自身の理由」が減少していることがうかがえます。しかし、年齢に関係なく労働者が最終的に退職を決断するまでには多くの葛藤があります。入社の時には現在の終身雇用・年功序列という日本型雇用慣行のもとで、多くの人がその人の一生を託す決意をしていたはずです。しかし、「退職の道を選び、選ばざるを得なくなった」こういう経過をたどり退職に至った求職者に、退職理由をこのアンケートでひとことで言えというのは無理であろうと思います。窓口で多くの求職者と接した私たちの経験からも、アンケートの回答で「その他」が一番多かったということからもそのことがうかがわれるのではないでしょうか。そして、前回の行研活動の際の求職者の言葉「正当な理由がないと言ってほしくない。誰でもそれなりに退職した理由があるのです」を今一度思い起こし、「その他」として記述された多くの言葉の重みを真摯に受け止め、単なる「自身の理由」ではなくその背景と真実を理解し、私たちの日常の職業紹介業務、雇用保険業務にいかす必要があります。

(3)「家族の都合」で退職した人の分析
全体で見た場合、「介護」(37.5%)と「育児」(17.2%)で過半数をこえています。
この点からも「介護休暇」「育児休業」の各制度のいっそうの充実をはかる必要があります。(図19)
また男女別に見ると、男性では「親の介護」が53.5%で過半数をこえていますが、女性では「親の介護」は30.6%で「育児のため」が23.0%となっています。これは女性は「親の介護」が少ないのではなく、「親の介護」も当然におこない、さらに「育児」が女性に対する負担となっていることをあらわしているとみることができます。(図20)
また、「配偶者の転勤」を理由として上げた女性の44名(16.6%)についても、一般的には配偶者の状況の変化によるもので、これは企業の「合理化」や「リストラ」により、広範囲な「配置転換」「出向」が行われ、退職せざるを得なかったケースが含まれると推察されます。

2.離職者の収入からうかがえる実態

ここでは離職後の主たる収入の状況を調査していますが、全体では「雇用保険失業給付」が32.3%、次いで「貯金・退職金」が25.1%となっています。(図21)
離職理由別に見た場合、「雇用保険失業給付」の比率は「自身の理由」でやめた場合の26.7%に対し、「会社都合」では42.2%と比較的高くなっています。(図22)
ここから何の準備もなく急に解雇された労働者の「雇用保険失業給付」に対する依存度は非常に高いことがわかるとともに、生活保障の効果もあらわれていると考えられます。
一方、「自身・家族の理由」で退職した場合は「雇用保険失業給付」の比率はずっと低くなります・ここからは、手続きしても「3カ月給付制限」によりすぐには支給されない「雇用保険失業給付」に頼ることができず、「貯金・退職金」を使わざるを得ない状況にあることがうかがわれます。
これらのことは、「アンケート項目11」の設問に対し、「雇用保険法の充実」を求める声が多いことからも明らかです。給付制限の撤廃が35.9%(2,343名)、給付額の引き上げ18.3%(1,196名)、所定給付日数の拡大17.4%(1,137名)と上位3項目までで全体の71.6%を占め、雇用保険に対する期待の大きさをうかがわせています。

3.希望雇用形態から見た実態

再就職にあたっての希望雇用形態は図23のとおりです。
前職の雇用形態が「正社員」は総数で5,140人であり、「正社員」で再就職を希望する人は4,305人で約16%減少し、前職が「パー卜社員」は695人で、再就職希望は1,564人と倍増することになります。(図24)
これだけを見れば「パー卜雇用」を希望する割合が増え、パート労働者の増加は労働者の意思に沿ったものと言えるかも知れません。
しかし、なぜ「パート雇用」を希望するのかを詳しく見てみると、回答で一番多いのが「年齢、経験などの制限による応募難のため」(24.9%)であり、これはたとえ「正社員」を希望していても求人が年齢などで制限されており、「パー卜雇用」を希望するしかないということです。また、「育児、介護のため」(18.5%)についても、「正社員」ではとても「育児・介護」と両立できないということであり、働き続けるための制度上のバックアップや労働条件次第では「正社員」を希望したことをうかがわせます。また、「扶養家族からはずされたくないから」(8.2%)という理由も税法上の問題が大きく、これらを合計すると約半数は自発的な「パート雇用」希望とは言い難く、仕方がなく「パー卜雇用」を希望しているという実態が明らとなってきています。最近、しきりに「労働者の意識の多様化」が強調され、政府・財界は「働く人がいろいろな価値観、意識を持つようになってきたからパート、アルバイト、派遣労働等のさまざまな雇用形態が必要である」と主張していますが、実際はまったく逆なのではないでしょうか。
財界がもくろむ労務戦略は、「終身雇用制度」などの従来の雇用慣行を見直し、不安定雇用を増大させ、企業の都合で好き勝手に採用、解雇をくりかえすシステムを構築しようとするものです。労働者の意識の多様化を言うならば、まず労働条件の向上と家庭責任等を有する労働者が安心して働き続けるための各種制度が実効あるものとして整備されなければならないのは当然のことです。

4.就職時に重視していることがら

(1)労働条件について
男性では「賃金」(67.1%)、「仕事内容」(62.9%)の2項目に集中し、以下「勤務時間」(38.9%)、「職場環境」(26.5%)の順に続きます。これは当然のことながら、生活の安定・確保と、中長期的な勤務を考えてのことと思われます。
一方、女性では「仕事内容」(62.1%)、「勤務時間」(58.9%)、「賃金」(56.5%)、「通勤時間」(35.9%)となっています。女性の場合、その多くが「家事・育児」などを行いながらの「仕事」であることから「働きやすさ」という点を重視していることがわかります。そのために「勤務時間」を重視する女性の比率が非常に高くなっており、希望雇用形態とも関連しますが、「パー卜希望の理由」の項目でも「家事のため」が25.9%と高く、以下「年齢・経験」「育児・教育」と続いたものと思われます。
つまり女性の場合、「家庭生活と仕事の両立」という問題にかかわって、家事・育児にかかる時間を確保するために、「勤務時間」を重視しているのであり、逆に、正社員では長時間過密労働で、「家庭生活と仕事の両立」ができないということを証明していると考えられます。

(2)制度面について
まず男性・女性とも重視する点として、「社会保険」を第一位にあげていること(男性83.5%・女性77.8%)が注目されます。このことは労働者が就職するための条件として社会保険を重視しているという意識のあらわれと見ることができます。また、依然として雇用・労災・健康・厚生等の社会保険が整備されていない事業所が多いという現実も直視しなければなりません。
以下男性の場合は、「週休二日制」(44.0%)、「退職金」(41.6%)と続き、女性では、「週休二日制」(56.6%)、「有給休暇」(45.5%)と続いています。女性の場合、将来的な職業生活を考える時に、家庭事情全般に視点を置き、前項「(1)労働条件について」でも述べた「働きやすさ」を重視していることがうかがえます。

5.アンケート記述にみられる離職者の意識

(1)企業に対する意見.要望の概要
企業に対する意見の中で特徴的なことは、「社員を大切にしてほしい」「業績不振を社員の責任にしないでほしい」「安易な雇用調整を行わないでほしい」というような意見がたいへん多かったということです。こうしたことから企業がこの不況下で、労働者に対して一方的な雇用調整を強いている状況がはっきりとうかがえます。
また、「賃金の引き上げ」「労働時間の短縮」などの根本的な労働条件の改善の遅れや「中高年齢者の受け入れ態勢の強化」「定年の延長」などの職業安定行政にもかかわる重要な課題も数多く出されています。

(2)労働行政に対する意見・要望の概要
労働行政に対する意見・要望は広い範囲にわたり出されていますが、大きく分けて「職業紹介を受けやすい環境の改善」というハード面に対する意見・希望、「求人の確保と内容の把握」などのソフト面に対する意見・要望および「雇用保険制度」への意見・要望に大きく別れています。
まず、「職業紹介を受けやすい環境の改善」という点では、「駐車場が狭い」「もっと安定所を増やしてほしい」などという「庁舎の改善・整備」に対する意見や、「もっと親切に対応してほしい」など「職員の対応」に多くの要望が出されています。予算の確保や職員研修の充実などでこれらの意見・要望に対応していく必要があります。
また、「求人の確保と内容の把握」という点では、「積極的な求人開拓」などの求人の総量の確保と、「企業・求人の内容を十分チェックしてほしい」というような、求人の質の向上を求めています。これは、「定年延長」「高年令者の雇用促進指導」などに代表される、企業指導についての要望と連動し、職業安定行政の機能強化が望まれていることを示しています。さらに、「職業訓練制度の充実」に関しても、「訓練科目の増設」「受講定員の拡大」「年齢制限の撤廃」などの要望も数多く出されています。このような意見・要望は労働行政に対する非常に大きな期待につながっていると考えられます。
雇用保険制度に対する要望については、「3ケ月給付制限の見直し・撤廃」が最も多くなっており、「2.離職者の収入からうかがえる実態」の項で述べた点を裏づける結果になっています。また、第19回と第20回の行研活動のなかで、「雇用保険の現状と問題点」というテーマでアンケートを行っていますが、その時も「給付制限期間の見直し・撤廃」を求める回答が非常に多かったことや、組合員メモにも同様に数多くの批判が記述されています。この問題は好・不況期にかかわらず、大きな矛盾を抱えたまま現在に至っています。
アンケート記述部分全体で感じられることは、安易な「雇用調整」を行う企業に対する法的規制や指導の強化などの要望と、雇用保険制度をはじめとした現行制度の充実を望む要望・意見が多くを占めていることです。求職者は「労働者の立場に立った」民主的な行政を期待しています。今回の労働行政研究活動の成果をふまえ、今日における労働行政が果たすべき役割をもう一度検証する必要があります。

3.進まない労働時間の短縮

1.アンケート結果にみる所定労働時間短縮の実態

前回の20回行研(1991年)における「週休制」に関する調査では、「完全週休2日制」26.4%、「何らかの形での週休2日制(4週5休〜4週7休)」47.6%、「週休1日制」19.1%となっていましたが、今回のアンケート結果では、「完全週休2日制」38.3%、「何らかの形での週休2日制」42.0%との集計結果となり、未だに完全週休2日制が定着したとは言えない状況にあります。なお、20回行研との比較では、完全週休2日制が11.9ポイント増加し、逆に何らかの形での週休2日制はマイナス5ポイントと少なくなっています。
また、今回のアンケート結果から「正社員」の週所定労働時間をみると、44〜46時間未満14.7%、46〜48時間未満11.6%、48時間以上11.0%となっており、37.3%の労働者が週40時間労働とは無縁の労働をしていることが明らかになりました。(図25)
さらに企業規模別にみた場合5〜9人規模の企業においては30%を越える労働者が46時間以上働いており、企業規模1,000人以上の企業でも46時間以上働く人が10%も存在しています。(図26)
1994年の「毎月勤労統計調査」の年間総実労働時間(調査産業計:30人以上)は1,904時間であり、対前年比でわずか9時間しか短縮されていません。アンケート結果にみる所定労働時間の分布状況からも所定労働時間短縮のテンポは鈍く、時短推進計画において当初目標とした「90年代前半の早い時期に1,800時間を達成」とはほど遠い状況が確認できます。(図27)

2.総実労働時間について

1994年「毎月勤労統計調査」によれば、年間総実労働時間は1,904時間で、うち時間外労働は132時間、月平均11時間の時間外労働を行っていることになります。
アンケート調査における時間外労働の実態は、正社員で73.7%が「変わらない」「多くなった」と回答しており、実際に時間外手当が支払われた時間数では「なし」30.8%、「10時間以下」26.3%、「10〜20時間未満」22.6%、「20〜30時間未満」10.4%、「30〜40時間未満」5.2%、「40〜50時間未満」2.8%、「50〜100時間未満」1.9%、「100時間以上」0.4%となっています。さらに注目すべき点は、時間外手当が支払われないいわゆるサービス残業について、全雇用形態を通じて36.3%もの人が「ある」と回答していることです。その内訳は、1ヵ月当たり「10時間以下」42.8%、「10から30時間」32.2%、「30時間以上」12.7%となっています。
今回のアンケート結果と「毎月勤労統計調査」の数値を比較して総実労働時間の実態を軽々に論じることはできませんが、アンケー卜結果が労働者個々人からの回答であることを考慮すれば、より実態に近いものと推察できます。
こうした労働時間に関するアンケート結果からは、38.8%の労働者が週所定労働時間44時間以上となっており完全週休2日制(週40時間)の定着とは程遠い現状にあること、時間外手当の支払われないサービス残業、風呂敷残業が横行しており、労働時間の短縮とは名ばかりの実態がうかがわれます。
なお、総務庁統計局の「労働力調査」によれば、年間総実労働時間は「毎月勤労統計調査」の数値より常に多い結果となっており、1992年における比較では「毎月勤労統計調査」が1,982時間、「労働力調査」が2,309時間と後者が、327時間長くなっています。調査方法の違いが影響しているものと思われますが、「労働力調査」は労働者調査であること、「毎月勤労統計調査」は企業調査であり、今回のアンケー卜結果にあらわれたサービス残業の実態などと併せて考察するならば、「労働力調査」における数値の方が、長期化している不況下で厳しい労働環境に置かれている労働者の実態をより正確に反映しているものと思われます。(図28)

4.「残業規制」とサービス残業

1.アンケートに見る残業時間の実態

残業時間の変化では、この1年間で、「少なくなった」が23.0%で、「多くなった」と「変わらない」を合わせると75.3%となっており、不況下においても残業時間は減少していないことがうかがわれます。
労働省の「毎月勤労統計調査」においても、1994年度の所定外労働時間は1993年度と比較して、年間でプラス2時間とほぼ横ばいの結果となっています。
今回のアンケートの結果では、時間外手当が支払われた残業時間は、「なし」35.5%、「10時間以下」23.0%、「10〜20時間未満」18.0%、「20時間以上」15.8%となっています。(図29)
69.4%の男子が時間外手当の支払われた残業を行っており、そのうち「月10時間以上」44.1%、さらに「30時間以上」は12.0%にも達しています。女子は、49.8%が残業を行い、そのうち「月10時間以上」が20%、「30時間以上」も2.0%あります。

2.残業規制が雇用調整の1つの柱

「最近1年間に会社で行われたこと」として、「残業規制」と回答した労働者が21.2%(離職者では、26.6%)に上っています。「残業規制」は、雇用調整の中でも、「人員削減、採用・補充中止」と並んで最も多い事項となっています。
企業規模別で見ると、300人以上で30.8%と大企業ほど「残業規制」を実施していることがうかがえます。
また、業種別では、製造業が約4割と最も多くなっています。

3.依然としてはびこるサービス残業

(1)36.3%の労働者がサービス残業を行う
今回の調査では36.3%の労働者が何らかのサービス残業を行っていることが明らかとなりました。(男性42.3%、女性27.9%)
全労働第20回行研活動の調査(1991年)においても42%の労働者がサービス残業があると答えていますが、今回の結果は依然として違法なサービス残業がはびこっていることを示しています。

(2)ホワイトカラーに多いサービス残業サービス残業を行っている労働者のうち、43.8%が10時間以上、5.8%が50時間以上も行っているという調査結果となっています。(図30)
職種では、多い順に営業・販売職で48.7%、専門・技術職で41.8%、事務職で35.7%の者がサービス残業を行っており、ホワイトカラーに多いことを示しています。(図31)
また業種別にみた場合、金融・保険.不動産業では57.1%と過半数を超える労働者がサービス残業を行ったと答えています。(図32)
企業規模では、1000人以上の大企業で42.6%と規模が大きくなるほどサービス残業を行っていると回答した労働者の割合が多くなっています。

(3)サービス残業を行う労働者の状態
サービス残業を行っている労働者は、行っていない労働者と比較して職場が「忙しくなった」(30時間以上のサービス残業を行っている者63.6%・全く行っていない者24.1%、以下の項目も同じ)「ノルマの査定が厳しくなった」(31.0%・7.1%)と感じ、「生活が不規則になった」(30.4%・5.7%)「毎日ぐったり疲れる」(20.7%・5.4%)「体調を崩し」(18.5%・3.9%)「過労死の不安がある」(40.7%・7.1%)などの状況におかれています。

(4)サービス残業を行う理由
サービス残業を行う理由として、「仕事がこなせない」25.6%、「自分の判断で自主的に」21.0%、「会社が時間外労働時間を制限」8.3%、「残業手当がつかない」が5.8%となっています。(図29)

4.変形労働時間制等労働時間の弾力化による問題点

(1)変形労働時間制等労働時間の弾力化と労働時間の短縮〜変形労働時間制のもとでは労働時間短縮は進まない
今回のアンケート集計結果の正社員に着目すると23.2%の労働者が変形労働時間制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制等弾力化された労働時間管理のもとで働いています。変形労働時間制等の労働時間の弾力化のもとで労働時間が短くなったのは、28%弱の労働者にすぎない状況です。(図34)
また、営業等事業場外労働に従事する労働者に対する適用が考えられる事業場外みなし労働時間制では労働時間の短縮が行われたのは11.1%で変形労働時間制が採用されていない人よりも少なく、みなし労働時間制は現状の労働時間の固定化にしか役立っていないということが言えます。
変形労働時間制等の種類に着目すると1カ月単位の変形労働時間制(9.3%)、フレックスタイム制(6.5%)の順です。

(2)裁量労働制に従事している労働者の状態〜裁量労働制に従事している労働者は、全員疲れを感じている
裁量労働制に従事している労働者のアンケート数(正社員)は14と少なく断定的なことはいえませんが、全員が疲労を感じており、事業場外みなし労働時間制とともに疲労を感じている率が高いことがわかります。(図35、36)
さらに裁量労働制のもとで働く労働者については、(a)78.6%の労働者が「忙しくなった」としており、他の変形労働時間制においては高くても44.4%(みなし労働時間制)である、(b)71.4%の労働者が「仕事がきつくなった」としている、(c)35.7%の労働者が「生活が不規則になった」としており、他の変形労働時間制等に比べて高い、(d)「体調を崩す」ようなことのある率は78.5%と他の変形労働時間制に比べて高い等の特徴があらわれています。

5.アンケート結果から浮き彫りになった問題点

(1)「残業規制」の一方でサービス残業が横行
アンケート結果では、「残業規制」を会社が実施していると答えた労働者のうち、39.5%の人がサービス残業を行っていました。「残業規制」は、本来仕事量が減少する中で時間外労働時間の規制を行うものですが、アンケート結果からは「残業規制」が労働時間規制ではなく、「残業手当規制」にすぎないことが明らかになりました。
また、サービス残業の理由として「仕事がこなせない」「自主的に」など、労働者の側の理由が多く見られますが、同時に自由記述部分では「サービス残業・休日出勤を無くして欲しい」「適正な人員配置・増員」を求める声も多くなっています。ここから、不況下で残業手当は押さえられながら、こなしきれない仕事については「自主的に」サービス残業を余儀なくされている労働者の実態が浮かんできます。

(2)サービス残業が労働者の生活・健康を破壊
先に30時間以上サービス残業している労働者とまったくしていない労働者の比較をあげましたが、これを見るとサービス残業を含む長時間労働が労働者の生活と健康破壊をもたらしていることがわかります。サービス残業の時間が増えるほど深刻で、100時間以上サービス残業をする人のうち、65%が過労死の不安を感じたことがあると答えています。

5.過労死に対する不安と健康管理

1.自由に取れない年次有給休暇

今回の調査で、「この1カ月間で年次有給休暇を何日取りましたか」という質問に対する回答は図37のとおりです。年次有給休暇を一日も取得していない人が半分程います。
また、「年次有給休暇を取ることをどのように思っていますか」(複数回答)という質問に対しては、自分の意思どおり休んでいると考えられるものが「取りたい時に自由に取る(44.2%)」「夏休みなどにまとめて使いたいので普段は取らない(18.4%)」、自分の意思に反してなかなか休めないと考えられるものが、「同僚に迷惑がかかるので取りにくい(37.8%)」「仕事がたまるので取りにくい(33.3%)」「成績に影響したりボーナスの査定にかかるのでなるべく取らない(7.1%)」「会社が取らせてくれない(5.4%)」「年次有給休暇の制度がないので取れない(4.5%)」となっています。また、「病気やけがに備えて普段は取らない(32.9%)」という人も多くいます。
自分の意思に反して年次有給休暇を取得できていない状況は、職場に年次有給休暇を取得できる体制ができていないことを示しています。つまり年次有給休暇を取得すると、仕事が順調に運べないことになり、「同僚がひどい思いをする」「自分が後でひどい思いをする」と思って、自分から休暇を取得できない実態があることがわかりました。

2.健康診断を受けていない人が15.6%

今回の調査で、「この1年間に健康診断をうけましたか」という質問に対する回答は、「受けた」が83.2%、「受けていない」は15.6%でした。
「受けていない」は、企業規模では5人未満(38.4%)、5〜9人(35.7%)、10〜29人(26.9%)、年齢別では25歳未満(27.2%)、雇用形態では労働時間が正社員と同じパート社員(35.8%)、労働時間が正社員より短いパー卜社員(45.6%)、職種ではサービス関係(41.0%)や運転・通信(25.7%)、業種では卸・小売・飲食業(34.7%)やホテル・旅館業(30.6%)で高くなっています。
また、今回の調査で、労働時間が正社員と同じパート社員の健康診断の受診率が低いことが判明しました。労働省のパートタイム労働指針では、1年以上使用する予定の労働者で、1週間の労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3以上であれば、雇用形態に関係なく健康診断を実施することになっていますが、正社員と同じ時間働いていても「パート社員」という身分であれば、法律の適用が除外されるという誤った認識をもつ事業主が多いことを裏付けているものと考えられます。
健康診断を受けた人の中で、「異常があった」のは21.8%、「異常がなかった」のは76.0%となっています。45〜59歳(36.4%)、60歳以上(34.3%)で異常があった者の割合が高くなっています。
「健康診断を受けていない」理由は図38のとおりとなっています。
「実施していない」と回答した中では、企業規模の5人未満の割合が67.4%と高率になっています。「健康診断を受けていない」理由について「めんどうだ」の回答中、職種別ではサービス関係が16.5%となっています。また「仕事が忙しい」の回答中、職制別では中間管理職が21.6%と高率になっています。
健康診断を受けていない理由の半数以上が企業で実施していないためであることが判明しました。企業規模が小さいところほどその割合が高く、小規模・零細事業場を中心に、行政として健康診断の必要性をさらに周知していく必要があります。
また1割弱の人が仕事が忙しいために健康診断を受けていないことも判明しました。健康管理の第一歩である健康診断を、仕事が忙しいために受けられない実態があることはきわめて問題です。

3.意外と知られていない衛生管理者・衛生委員会

今回の「衛生管理者はいますか」という質問に対して、衛生管理者を選任する必要があると推測できる100人以上の企業規模で、「いる」48.8%、「いない」17.5%、「わからない」32.4%と回答しています。
同じく「衛生委員会はありますか」という質問では、衛生委員会を設置する必要があると推測できる100人以上の企業規模で、「ある」45.3%、「ない」19.4%、「わからない」33.6%という割合になっています。
今回の調査では衛生管理者や衛生委員会を設ける必要がある事業場で、どれだけの割合で設けられているか正確な割合はわかりませんが、ここで問題にしたいのは、約3割強の入が「わからない」と答えていることです。これは実際に設置されていないか、衛生管理者や衛生委員会を設けている会社においても、それらの活動が十分に行われていない、あるいは一部の人や部署の活動に終わり、それ以外の人に活動が十分知られていないことのあらわれと判断できます。

4.仕事で疲れ切っている労働者

今回の調査で、「仕事をすることで疲れを感じますか」という質問に対する回答は図39のとおりです。
疲労感を感じる者の割合は約75%にもなります。このうち「常時疲労感がある」、「毎日ぐったり疲れる」と答えた割合が高いのは、業種では、医療・福祉業(順に18.8%、11.2%)で、勤務実態では、一番長く仕事をした日の労働時間が15〜20時間未満(25.0%、20.8%)、同20〜24時間(25.9%、16.7%)、1カ月間の休日出勤の日数が3日(20.6%、17.7%)、同4日(27.0%、11.1%)、同5日(23.1%、15.4%)、同6日以上(16.3%、26.5%)、時間外手当が支払われた残業時間が1カ月40〜50時間未満(21.2%、14.1%)、同50〜100時間未満(25.9%、14.8%)、サービス・持ち帰り残業が1カ月40〜50時間未満(31.3%、18.8%)、同50〜100時間未満(34.4%、29.7%)でした。
1991年実施の第20回行研アンケートでは、仕事で疲労を感じることが「ときどきある」が56%、「よくある」が18%と、仕事でストレスを感じることが「ときどきある」が53%、「よくある」が25%となっていました。今回の調査は景気低迷期に行われましたが、仕事で疲れると感じる者の割合は、第20回行研アンケート調査と大差ない結果となっています。
今回の調査で、「最近1年間で体調を崩すことがありますか」という質問に対する回答は、「ときどきある」が52.2%、「よくある」が5.5%となっています。体調を崩すことが「よくある」と回答した割合が高いのは、業種では、「医療・福祉業」(9.4%)で、勤務実態では、「一番長く仕事をした日の労働時間が15〜20時間未満」(11.3%)、「同20〜24時間」(7.4%)、「休日出勤の日数が1カ月3日」(9.9%)、「同4日」(11.1%)、「同5日」(7.7%)、「同6日以上」(12.2%)、「時間外手当が支払われた残業時間が1カ月50〜100時間未満」(11.1%)、「サービス・持ち帰り残業時間が1カ月40〜50時間未満」(16.7%)、「同50〜100時間未満」(26.6%)となっています。
また、「過労死すると感じたことがある」人の割合は14.5%でした。
「体調を崩した時にどのようにしていますか」という質問に対する回答は図40のとおりです。
「病院にかかる」と回答した割合が高いのは、年齢で、「60歳以上」(58.5%)でした。「休暇を取って静養する」と回答した割合が高いのは、週所定労働時間で、「20時間未満」(29.8%)でした。「仕事が忙しくて何もできない」と回答した割合が高いのは、職種では、「営業・販売」(11.3%)で、業種では、「金融・保険・不動産業」(12.7%)、「医療・福祉業」(10.9%)で、週所定労働時間では、「48時間以上」(22.6%)となっており、これらの人々では、「常時疲労感があると感じる」(17.8%)、「毎日ぐったり疲れると感じる」(25.6%)、「過労死すると感じる」(25.6%)割合が非常に高くなっています。
今回の調査では「仕事が忙しくて何もできない」と回答した者が8%いました。当然のことですがこの回答をした人では、「強い疲労感がある」、「過労死するのではないか」と感じる人の割合が高くなっています。体調を崩しても仕事のために「何もできない」ことが、労働者の健康をむしばんでいると言うことができます。

5.長時間過密労働と過労死に対する不安

第20回行研アンケート調査では、「最近仕事がきつくなったと感じますか」との質問に対し、「非常にきつい」が16%、「少しきつい」が36%、「かわらない」が37%、「少し楽」が5%、「非常に楽」が1%でした。
今回の調査では、「楽になった」が6%と変化はないものの、「変わらなかった」が54%と少し多く、「きつくなった」が40%と少なめでした。これは景気が多少影響したものと考えられます。しかし楽になった人の割合が増えていないことは、人員削減などのため労働者が引き続き過密な労働に従事していることをあらわしていると考えられます。
今回の調査で「最近1年間に仕事が忙しすぎて過労死するのではないかと感じたか」との質問で、「ある」が11.1%、「ない」が85.6%でした。「ある」と回答した割合が高かったのは、職制では、「中間管理職」(17.9%)で、週所定労働時間では、「48時間以上」(28.3%)で、労働時間制度では、「みなし労働時間制を採用している」(26.9%)で、勤務実態では、「一番長く仕事をした日の労働時間が15〜20時間未満」(36.3%)、「同20〜24時間」(44.4%)、「時間外手当が支払われた残業時間が1カ月20〜30時間未満」(20.6%)、「同30〜40h未満」(26.9%)、「同40〜50h未満」(37.5%)、「同50〜100時間未満」(46.9%)、「休日出勤日数が1カ月2日」(21.3%)、「同3日」(27.7%)、「同4日」(33.3%)、「同5日」(30.8%)、「同6日以上」(32.7%)、「サービス・持ち帰り残業時間が1カ月20〜30時間未満」(20.6%)、「同30〜40時間未満」(26.9%)、「同40〜50時間未満」(37.5%)、「同50〜100時間未満」(46.9%)でした。
このように今回の調査では過労死不安を感じることと、仕事のきつさの程度や実労働時間の長さには、強い相関が明らかとなっています。


6.労働者の健康は保たれているか

今回の調査では、労働時間や残業時間の長さ、休日出勤の回数の多さ、サービス・持ち帰り残業時間の長さが、労働者の疲労感、労働者の体調の悪さ、労働者の健康状態と相関があることが判明しました。仕事の忙しさのために、健康診断を受けない人、体調を崩しても何もできない人がおり、健康管理の観点からも労働時間、労働密度を問いなおすことが求められています。
また今回の調査では医療・福祉業で、強い疲労感を感じる人や、体調を崩す人や、過労死不安を感じる人の割合が多いことが判明しました。この業種では、変則交替勤務が多いこと、労働密度が高いことが原因と思われます。命を預かる職場で苛酷な労働が行われていることは、皮肉な結果です。
長時間・過密労働の解消のために、実労働時間の減少、サービス・持ち帰り残業の根絶、休日出勤の制限などが、過密労働の解消のために、十分な人員の確保、変形労働時間制やみなし・裁量労働制の制限などが必要です。

6.女性労働者の労働の実態

1.女性労働者の雇用形態

アンケートの回答者について、性別による雇用形態を比較した場合、求職者アンケートでは、男性の場合「正社員」が87.6%、「臨時・日雇社員」、「パー卜社員」等を合わせた非正社員は12.0%。これに対し、女性は「正社員」が71.3%、非正社員は28.2%となっています。
在職者アンケートによると、男性は「正社員」が89.1%、非正社員は10.6%。女性は「正社員」が64.8%、非正社員は35.0%であり、特に「短時間パート社員」は5人に1人の割合(20.0%)となっています。
女性の場合、パート社員の形態で働いていた、又は働いている割合が、男性に比してかなり高いという結果になっています。
求職者が今後就職する場合の希望する雇用形態をみても、女性の場合「パート雇用」を希望する人が33.6%にものぼるのに対し、男性の「パート雇用」希望者は12.5%に過ぎません。(図41)
この背景には、女性がより家庭責任を負っている現状が存在するものと思われます。
「パート雇用」希望の理由をみると、女性の場合4人に1人(25.9%)が「家事のため」を挙げており、「育児、教育のため」(18.6%)、「親などの介護のため」(4.5%)を合わせると半数近くが、比較的就業時間が短く、家庭生活と両立させることが容易であるパート雇用を希望しています。男性は「家事」「育児、教育」「介護」を理由とする者を合わせてもわずか6%にも満たない結果となっています。
一方、「趣味などのため自由時間を確保したい」とする者は、男性は24.7%であるのに対し、女性は6.6%となっています。(図42)
ここで比較したい調査結果があります。
労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(平成2年)による女性がパートを選択する理由をみると、今回のアンケート結果と異なり、「家事、育児の事情」(24.1%)より圧倒的に多数の者が「自分の都合の良い時間に働きたい」(64.8%)と回答しています。その一方、「正社員として働ける会社がない」と回答している者は13.8%と比較的少ない数値となっており、これらの結果から「女性の場合、自ら希望してパー卜夕イム労働に従事しており、仕事の選択にあたっても時間的余裕を重視するものが多い傾向にあり、就業ニーズの多様化にともない、パー卜タイム労働へのニーズは増大している」というイメージを意図的に描きだしています。
つまり、労働省調査においては、当該設問を複数回答制としていることに留意する必要があり、「家事、育児の事情」と「自分の都合」は決して別ものではなく、「家事、育児の事情」等=(イコール)「自分の都合」という図式つまり複数回答が成り立つのです。
今回のアンケートでは、求職中の者は性別を問わず、正社員として働くことを希望する割合が最も高いという結果になりました。
女性は58.6%、男性に至っては求職中の実に4分の3(74.7%)の者が正社員を希望しているのです。「パート雇用」希望の男性(12.5%)に着眼しても、その半数近く(42.1%)か「正社員には年齢、経験などの制限があり応募が難しいから」という理由を挙げています。
「女性にもっと門戸を開けて欲しい」という声に代表されるように、正社員として働くことを希望しながら正社員として雇用されない、あるいはとくに女性については、仕事と家庭の両立という困難な状況を克服するためにやむなく「パート雇用」を選択せざるを得ないという過酷な現実がそこにはあるのです。

2.女性労働者に対する雇用調整の現われかた

不況下における雇用調整はどのように行われているのでしょうか。
求職者アンケートと在職者アンケートの回答者の合計を100とし、会社における「希望退職、勧奨退職、解雇」の対象をみた場合、「男性のみ」と「男性の方が多かった」を合わせると20.4%、「女性のみ」と「女性の方が多かった」を合わせると20.3%となっており、「性別に関係なく」という回答が50.0%という結果でした。
総務庁統計局「労働力調査」によると、平成6年の女子雇用者は全体の38.8%を占めるに至っており、雇用者総数に占める女性の割合は年々増加しています。
とはいえ、職場においては、男性が6割以上を占めているのが現状であり、雇用調整の対象について、上記の数値では一見性別による偏りがないかのように判断され得る結果となりましたが、各々の職場における男女の比率等を考慮する必要があると思われます。
求職者が離職するに至った理由をみると、「自身の理由から」と回答した人が54.7%と半数以上を占めますが、次に回答の多かった「会社の都合」(31.0%)の理由に焦点を当てた場合、男性は「定年」を理由とする人が30.2%と最も多かったのに対し、女性は「解雇」のケースが32.8%と最も多くなっています。(図43)
また、先にみたように、女性の場合パート社員等の非正社員として働いていた人が男性と比較してより多いということもあり、「契約期間の満了」によるとする人も20.3%を占めています。
労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(平成2年)によると、雇用契約期間が定められていたパート社員のうち、更新規定があったとする割合が73.2%となっていますが、深刻化する不況下においては、希望しても更新の行われないケースが増加しているものと思われます。

3.男女平等の実態

在職者アンケートにみられる男女間における平等観については、男女とも「平等と思わない」と回答した者が最も多く半数近く(45.6%)を占めています。(図44)
これを男女別にみると、女性の方が「平等と思わない」と答えた割合が高く(47.4%)「平等と思う」と答えた人は3割に満たない(27.7%)結果となっています。
また、企業規模が大きくなるにつれ、「平等と思わない」とする割合が増加しているのも特徴的です。
職場において不平等を感ずる点について割合の高い順に並べた場合、男性は「仕事の内容」、「賃金」、「昇進」となり、女性は「賃金」、「仕事の内容」、「昇進」の順となっています。(図45)
労働省「賃金構造基本統計調査」により、平成5年の所定内給与の男女間格差をみた場合、男性を100とすると女性は61.6となり、男女の格差は歴然としています。
ILO「Year book of Labour Statistics 1992」による主要国における賃金の男女間格差と比較しても、オーストラリア90.9、旧西ドイツ73.9、イギリス70.3といずれも日本の女性の水準を上回っています。
このような賃金格差についても、女性が男性に比べ高い割合で、賃金形態が正社員と区別され、明らかに低水準に抑えられているパート等の雇用形態での勤務を余儀なくされる身分に押し留められているという根本的な原因に帰着するのではないでしょうか。
また、正社員であっても、最近の三陽物産の賃金請求事件(東京地裁・1994年6月16日判決)にみられるように、賃金基準が女性に一方的に不利益になることを容認して制定・運営されているケースもあり、男女同一賃金の原則を規定した労働基準法第4条に公然と違反する企業も今だに厳存するのです。

4.女性が働くうえでの負担の現状

家庭において、女性の負担がより大きいと感ずる点については、男女とも同傾向にあり、8割が「家事」、6割が「育児」を挙げ、以下「家計のやりくり」、「病人などの介護」が続いています。(図46)
先に、女性労働者の雇用形態について触れたところですが、求職中の女性の将来的に望む働き方については、家事や育児、子供の教育等に時間を費やさざるを得ないために、男性と比べパート希望の割合が高いという結果でした。
しかし、在職者アンケートの回答者の雇用形態に着目すると、女性の正杜員数は非正社員数の約2倍てあり、女性全体の6割を超えています。正杜員として男性と所定労働時間を同じくして働いたうえで、家庭に帰ると家事や育児にも専念しなければならない人が多数派なのです。
総務庁純計局「仕会生活基本調査」によると、1991年の雇用者世帯における共働き夫婦の生活時間の実態をみた場合、「家事等」に充てる時間は、妻の場合3時間51分であるのに対し、夫は12分に過ぎず、その分妻は睡眠や休養に充てる時間を削っているという結果となっています。
働く女性の過酷な職業及び家庭生活の実態がうかがえるところです。
また、家族の理由のために離職せざるを得なかった現在求職中の人が、最も多くその理由としてあげたのが「親などの介護のため」となっており、男性53.5%、女性30.6%を占めています。介護に関しては、男女問わず、就業の継続をやむなく中断させる重大な要因のひとつとなっているのです。

5.労働者の求める男女平等の施策

こうした現状を踏まえたうえで、働く人々は男女平等の実現に向け、行政に対しどのような施策を求めているのでしょうか。
「男女の雇用差別を積極的に改善して欲しい」、「パート労働者を保護し働きやすい環境づくりのための法的整備を望む」、「働く女性が増えている中で育児や介護が重くのしかかっている。社会全体で働く条件を整えて欲しい」といった切実な生の声を自由記述部分から聞くことができました。
また、具体的な施策を列挙し回答を求めたところ、次のような結果となりました。
育児休業制度については、1992年に法が施行され、翌年4月1日からは、事業所規模にかかわらずすべての事業所に適用されていますが、男女とも「育児休業法を強化し育児休業制度を普及させる」を筆頭に挙げ(47.7%)、「男女雇用機会均等法に罰則を設けて男女差別を規制する」(33.1%)がそれに続いています。(図47)
また、「男女ともに時間外労働を法律により一定制限する」(27.6%)、「転勤、単身赴任を法律により一定制限する」(22.0%)という声も多く、家庭生活に支障をきたしかねない現代の長時間過密労働や転勤、単身赴任に対し、大きな疑問符が投げかけられています。
その一方、「時間外労働や深夜労働を規制した女子保護規定を撤廃する」という意見が女性では最も少なかった(80%)のに対し、男性側に多い(20.5%)のも特筆すべき点です。
現在労働省は、時間外労働の上限規制に背を向ける一方で、女子保護規定の撤廃・緩和をすすめようとしていますが、これはアンケート結果に示された女性労働者の望む方向とまったく逆行したものと言わざるを得ません。

6.女性労働者の労働時間・健康・生活

求職者アンケートと在職者アンケートの回答者の合計を100とし、職場における女性の残業時間の変化をみた場合、「多くなった」(14.9%)と「変わらなかった」(60.5%)を合わせると全体の4分の3を占めています。(図48)
また、求職者アンケートにより、女性の勤務時間の変化をみた場合、「長くなった」(10.6%)と「変わらなかった」(75.6%)を合わせると全体の9割近くにのぼります。
一方、職場の人員が「少なくなった」と回答した女性は40.7%と、「多くなった」(11.5%)を大幅に上回っています。(図49)
求職者アンケートによると、仕事が「きつくなった」と感ずる女性は38.1%と4割近くを占め、在職者アンケートでは、女性の30.9%が「仕事量が増え忙しくなった」と答えています。
これらの結果から、人員削減が着実に進み、仕事がいっそう過密化されたものと思われます。
男性も同様の傾向にあり・企業における大規模な雇用調整が行われている一方、働く側は過密労働を強いられているという実態をうかがい知ることができます。
その結果、健康面にはどのような影響が現われているのでしょうか。
疲労感については、程度の差はあるものの8割近くの人が日常感じており、「毎日ぐったり疲れる」という女性は8.2%となっています。
また、体調を崩すに至る女性は59.1%と6割近くいるにもかかわらず、仕事が忙しい等の理由で、通院や静養すらできないとする者が25.0%と4分の1にものぼっています。  次頁へ続く>>