「有効な安全衛生指導のあり方」の検討に向けてについて
1.現在の労働者の安全衛生環境について
●労働者をめぐる安全衛生環境はどうなっているか
現在、日本の労働者のおかれている労働分野の環境は、悪化の一途をたどっています。多くの労働者が労働の機会そのものを奪われていますし、失業しないまでも、正規労働者から非正規労働者への移行を余儀なくされ、労働条件が大きく下げられた下で働かされている者も増えています。また、現状の立場でなんとか働いている者も、そのほとんどが賃上げどころか賃金切り下げが当たり前となっている中で、賃金不払い残業を強いられるなど劣悪な労働環境の下におかれています。
このような雇用・労働条件の問題は、くらしに直接影響を与えることから、マスコミで大きく取り上げられるものの、職場の安全衛生をめぐる問題は、見過ごされがちになっています。しかしながら、東海村のウラン加工施設臨界事故、静岡市のコンクリート建屋解体工事崩壊事故、松山市での一酸化炭素中毒事故など重大災害が多発する傾向にあるなどけっして看過できない状況も見受けられ、一部のマスコミでは、「企業は、事故、災害に関して過去の失敗に学ぶことをせず、失敗を繰り返している」と論調し、企業のモラルハザードによる職場の安全衛生環境の低下を指摘しています。
はたして、労働者をめぐる安全衛生面での環境はどのようになっているのでしょうか。
●労災は減少しているが、危険は減っていない
労働災害・職業性疾病は、統計上の発生件数は確かに減少傾向で推移しています。そのことから労働者の現場における危険性が低下しているか、というと必ずしもそのような状況とはなっていません。厚生労働省が発表した度数率(100万時間あたりの労働災害発生件数)は、この5年間は増減を繰り返しており、実際に働いている労働者が災害に遭う危険性は全く減っていないことを示しています。この背景には、前述のように未曾有の高失業率下にあって就労している労働者数自体が大きく減少していることがあります。また、死亡災害に目をやると、昨年の死亡者数は1,658人とこれまでをさらに大きく下回っていますが、この中に最近特に社会問題化している過労死や過労自殺の件数は入っていません。ちなみに厚生労働省の発表によると、昨年認定した過労死は160件にも上っています。また、重大災害(一度に3人以上の死傷者を伴う災害)については、近年増加傾向にあることも見逃せません。
●あとを絶たない「労災かくし」
さらに、統計に表れない災害の存在についても見ておく必要があります。業務上の災害を労災扱いしない、いわゆる「労災かくし」があとを絶たず、かなり多くの労働者が泣き寝入りしているといった報告もあります。「民間労働者アンケート」(以下、労働者アンケート)によると、業務中のケガにかかる労災扱いの有無について尋ねたところ、労災扱いされたと回答したのが、わずか50.6%といった驚くべき結果が出ています。現に「安全衛生に関する事業場アンケート」(以下、事業場アンケート)において、「メ労災かくしモを指摘されることをどこの会社もおそれている。一度事故が公になると営業が出来なくなる」という声もあり、組合員メモにおいても、「建設業における労働災害において、自社敷地内の災害にしているケースがあり、元請に報告していない」といった労災扱いはするが、発生事実を虚偽報告するケースも散見されます。
この背景には、公共工事の入札指名停止など行政処分の回避、元請事業場への配慮など悪質な事業主の存在もありますが、労働者の意識の中に「労災の申請をするとクビになる」といったある種の"脅え"があることも事実です。業務上の災害は事業主の補償が義務付けられていますし、その療養中には基本的には解雇されることはないわけですが、労働者にとっては少しでも事業主の心証を悪くしてはならないといった意識があることは否定できません。また、「労災かくし」ではありませんが、賃金が低く抑えられている下で休業補償給付のみではやっていけず、かなりのケガであったとしても無理をしてでも出てくるといったこともあるようです。
2.職場の安全衛生管理体制について
●安全衛生管理組織について
安全衛生管理体制についてですが、「形式化、形骸化」している傾向が散見されます。組合員メモにおいても、「安全衛生法が施行され30年を経過し一定水準に達したが、それを支えてきた管理者が定μ芽年を迎え、そのノウハウが継承されていない。また、災害の減少により管理体制が形骸化している」といった声もあります。
事業場アンケートにおいても、安全衛生管理組織において「何らかの問題がある」との回答が43.5%あり、必要な対策については「今の管理組織を活性化する」が47.0%に上っており、既存の組織が有効に機能していないことを裏付けています。
組合員からは、「選任率」を重視するあまり、選任の有無が最大限重要視され、管理者としての職務の実施状況について見過ごされているといった声が上げられており、実効が伴うよう指導を行っていく必要があると思われます。
●機械設備について
事業場アンケートでは、機械設備について安全衛生面でなんらかの課題があると回答した者に対して、対策の内容をたずねたところ「点検検査をきちんと行う」が多く見受けられ、中でも中小規模においては、5割近くに上っています。機械設備の安全化については、特に安全装置の確保など本質安全化が有効な対策ですが、費用が伴う状況からか「安全装置の確保」については低い数字となっています。
組合員メモにおいて、「昨今の経済状況の中、機械設備を新しくするという事業場は皆無に等しい。機械設備・作業環境も条件が悪くなってくる一方だと思う。行政が主体となってお金をかけずに改善されるようなアイデア・ノウハウが共有化できるよう指導していく必要があると思われる」と機械設備の老朽化対策を示唆する声もあがっています。
2.事業主・労働者の意識について
●本当に「問題ない」とは思えない
事業主や労働者の安全意識はどうなのでしょうか。
事業場アンケートの中で、自社の安全衛生組織については55.8%が、機械設備についても65.3%がそれぞれ「特に問題はない」と回答しています。また、労働者アンケートにおいては、職場の安全性について、64.6%が「安全だと思う」と回答しています。一方で、労働者アンケートで「一部に危険がある」「かなり危険である」と答えた人に「安全衛生面での問題点」について尋ねたところ、「事業主の意識が低い」(33.8%)、「労働者の意識が低い」(30.5%)となっており、事業主、労働者双方の安全意識についてはともに低調であるとの結果が出ており、職場における安全衛生意識の高揚とともに安全衛生教育の充実が求められています。また、現場の実態を見る限り、安全意識が低い事業主が自社の安全性について「特に問題ない」と自己評価をしていることも多分に考えられ安全だと認識していること自体に疑問が残ります。
なお、組合員メモでは、「災害原因を被災者の行動やうっかり等に押し付ける傾向が高く、的確な正確な再発防止対策を講じていない事業場が多い」「最近の労働災害の発生からみると、事業主の責任による災害よりも労働者がもう少し考えて行動すれば、と思う不安全行動型が多く発生している。事業者のみならず労働者に対しても指導が必要である」といった、事業主や労働者の意識の低さを指摘する意見があがっています。
●安全衛生経費削減は当たりまえ
安全衛生確保のための経費については、職場の安全衛生に関する意識レベルをはかるバロメーターともいえます。事業場アンケートにおいては、安全衛生環境の確保にかかる経費について「削減している」と回答している事業主が28.3%にものぼり、その理由として91.6%が「経営面の事情」をあげています。行政の組合員が行うアンケートですので、本音が言いづらいことはある程度予想できますが、その中でこのような高率でこういった回答が出されていることは、厳しい経済状況の下においては、「一見直接目に見える経営上の効果につながらない安全衛生経費を削減することについては、もはややむを得ない」という風潮が社会的にも一般化していることの現れです。しかし、こういった傾向は機械設備に必要なメンテナンス費用まで削減する結果となっていることは否めません。
●再発防止対策の現状は
災害発生時の対応ですが、事業場アンケートでは、「即時対応する」「対応を検討する」といった再発防止について、何らかの対応を講じたとするスタンスの事業場は、83.1%に上っています。一方で労働者アンケートでは、「再発対策が講じられた」と回答しているのは、わずか26.4%にとどまっています。
同じ事業場に対するものではありませんので、これで全体の状況を推し量るこμ芽とは困難ですが、事業主・労働者双方の間に意識のずれがあることは確かです。事業主側が改善したと考えていることが、現場労働者にとっては全く効果がない(あるいは感じられない)ものであったり、官庁向けの言い訳にすぎなかったりするケースもあるようです。このことは私たちが、災害調査等で事業場におもむき、事業主・労働者双方の言い分を聞く際にも感じることです。
●健康問題の認識は低い
定期健康診断の有所見率は右肩上りで増加の一途をたどっていますが、労働者の健康に対する不安も高まっており、労働者アンケートの中では、72.8%が「なんらかの健康不安を感じている」と回答しています。しかし、事業主の意識はきわめて低いと言わざるを得ません。事業主アンケートでは、過重労働過労死予防の総合対策について尋ねていますが、「知っている」と回答したのははわずか58.2%にとどまっています。
危険を視覚的、本能的に感じることのできる安全問題と異なり、労働衛生問題は危険性を知識として有していなければ問題性を感じることがしずらい傾向にあることから、事業主の健康に対する意識が低くなりがちです。これだけ過労死・過労自殺などが社会問題化している状況においては非常に低いと言えます。
労働衛生対策を有効に推進していくために、医学的な見地からの指導を行うために産業医制度がありますが、その認知度は、非常に低調となっており、労働者アンケートにおいては、選任の必要な事業場においても「産業医を知らない」という回答が5099人規模で61.5%、300人以上でも38.0%にも及んでいます。しかし、選任率はこれを上回っていることから、選任がされているだけで有効に機能していないことの表れといえます。
3.行政体制について
●組織も人員配置も脆弱な安全衛生行政
安全衛生行政体制の整備がたちおくれていることについては、昨年実施した第7回全国安全衛生行政関係組合員集会において一定明らかにしたところですが、行政体制はきわめて脆弱なものとなっています。
監督署における安全衛生業務を担当する部署は、方面制署・三課制署では、安全衛生課(専課のない署は一つの方面)・第二課が専課となっていますが、少人数で膨大な届出の処理、検査、調査等多様な業務を行わなければなりません。
組合員メモでは「監督官で安全衛生業務を担当し検査までしている。専門的知識が不足し不安」、「安全衛生業務は専門的かつ広範囲であるため相当の経験と知識が必要で増員は元より若い職員を地道に育てることが必要」との専門性を高めることが必要との声があがっています。
専課のない二課制署においては第一課・第二課のいずれかで担当していますが、ほとんどが一人ですべての業務を負わされており、労災業務など他業務との兼務の場合もあって、きわめて不十分な対応とならざるを得ない状況となっています。
また、担当部署における人員配置もきわめて不十分な状況となっています。安全衛生業務を専ら担当する安全専門官・衛生専門官・技官は全国でわずか762人(基準関係職員の9.2%)にとどまっており、署の安全衛生部署に専門官が未配置となっている署が103署(全署の29.6%)、技官が未配置となっている署が148署(同42.5%)、専門官・技官ともに未配置となっている署が20署(同5.7%)にとどまっており、県内の監督署の数より専門官・技官の数が下回っているところすらあります。安全衛生法93条では「労働基準監督署に産業安全専門官及び労働衛生専門官を置く」となっていますが、法が定めている状況には遠く及んでいないのが実態です。
事業場アンケートでも「小規模事業でもあり、行政等に問い合わせたい事項も多々あるが、担当者が出張や会議等で不在な場合が多い。行政として人員不足でないか。余裕のある対応をして欲しい」、「労働者としては、労働行政が後退しているように思われる」という意見もあり、来署者側から見ても、不十分な体制に対し強化を求める声が上がっています。
4.安全衛生指導の現状について
●安全衛生問題を的確に指導するには職務権限問題の解決は不可欠
安全衛生関係業務は以前から非常に多岐にわたっていますが、近年、過労死等の防止、メンタルヘルス対策、ダイオキシン対策など、多様なニーズなどからその裾野を大きく広げています。そういった課題について、さまざまな行政手法によって解決をはかろうとしていますが、やはり、各μ芽事業場に対するていねいな指導が、特に、当該事業場の労働者の安全衛生環境を具体的にどう確保するか、という点においては最も効果的であることは言うまでもありません。しかしながら、専門官・技官が安全衛生に関して事業場を指導する際には、さまざまな制約が課されており、苦労しながら事業場に対する指導を行わざるを得ない現状があります。
特に問題となっているのは、専門官・技官の職務権限です。中でも技官については問題で、専門官は安衛法93・94条により事業場への立入権限が担保されていますが、技官には何の権限もありません。つまり、法的な後ろ盾が全くない中で事業場へ入っていって、現場の調査や関係書類の提示を求める業務に就かされている実態があります。また、現場において遭遇する問題事項は管理面も含めて法違反を伴うことがほとんど(特に、我々は災害多発等の問題がある事業場へ行く場合が多いことからなおさらです)ですが、その場合の対応も非常に問題があります。労働基準監督官は法違反にかかる指摘をして、同じ実態を見ても専門官等は異なる指導を行わざるを得ない状況があります。こういったことは行政の斉一性からいって非常に問題ですし、事業場の行政に対する不信感を助長することになりかねません。
●業務運営要領のさらなる改善が必要
2003年3月に「事業場、関係団体等に対する技術的・専門的な指導等の安全衛生業務の実施」のためとして安全衛生業務運営要領が出され、その中で、専門官の措置基準が一定あきらかにされ、法違反の署長名による是正勧告書の交付、使用停止命令書の交付等について可能となったものの、まだまだ現場においては改善が必要な状況です。
組合員メモでも「専門官・技官に法律的に職務権限を・措置基準を明確にすべき(持たせるべき)」「事業場に混乱を与えないよう安全衛生に関して監督官と同様の措置ができるように整備する」という意見が一番多く寄せられています。
●困難なガイドライン等の指導
行政通達は、事業場に対する指導の根拠となるものについてですが、安全衛生法を中心とした法令に加えて、通達・指針・ガイドライン等さまざまなものがあります。罰則規定のある法律条文の遵守については、前述の手法の問題は残るものの、ある程度理解が得られますが、通達等にかかる指導については非常に困難がつきまといます。特に近年出されている過労死の予防にむけた「過重労働による健康障害防止のための総合対策」や「労働安全衛生マネジメントシステム」等について、組合員メモでは、「通達が多すぎて必要な指導・情報提供ができない」など消化不良を起こして事業場への指導が困難であることが組合員メモでも述べられており、「通達が出るたび周知することはいいが、行政側の自己満足で全体のものになっていない」という声もあがっています。今後そうした指導を具体的にどのようにやっていくのかを明らかにすることが求められています。
5.有効な安全衛生指導のあり方について(まとめ)
現在、日本の労働者をめぐる安全衛生面の環境ですが、各種統計を見る限り一見すると大きく減少し改善しているように見受けられますが、実際にはまだまだ多くの災害が発生しています。一日平均約1,500人が災害を被り、そのうち5人弱もの尊いいのちが失われています。その上、「労災かくし」など看過しがたい実態も少なからず見受けられ、統計だけをメ鵜呑みモには出来ない実態があります。
また、事業主や労働者の安全衛生に対する意識レベルは総じて非常に低いといえます。安全衛生にかかる経費は当然のように削減され、災害が発生しても有効な再発防止対策が講じられていない現状も明らかになっています。このような背景には、現在の雇用失業情勢の悪化や低賃金化などで、労働者の労働実態がますます厳しくなっている状況において、相対的に安全衛生に関する事項は後景に追いやられているといった状況があります。
このような中で、私たちは、これまでに何度も悲惨な労働災害に遭遇し、取り返しがつかない状況になる前に未然に適切な指導ができなかった現実について、まざまざと見せつけられています。そうした状況を少しでも改善していくために、専門官・技官が事業場に対する適切かつ有効な指導を行っていくことが求められています。
しかしながら、専門官・技官がおかれている環境は、こうした指導が十分に行えるようなものとはなっていないのが現状です。
●必要な職務権限を与えるとともに、措置基準の明μ芽確化が必要
全労働はこれまで一貫して、職務権限・措置基準を明確化について主張してきました。特に、技官の職務権限・措置基準については、一向に明確にされておらず、不安を抱いたまま職務に就かせている状況は一刻も早く改善する必要があります。
組合員メモにおいても、こうした点の早期改善を求める声が数多く上げられていますが、こうした要求は今にはじまったものではなく、長年にわたって、先輩達から引き継がれているものであり、専門官・技官の"悲願"ともいえます。1983年6月に全労働が出した「安全衛生行政関係対策委員会報告」においては、「専門官の権限が法94条で明らかになっているものの職務を遂行するに足るものとなっておらず、専門官が自ら行う職務に関して法違反を発見してもそれを是正させる権限が十全に与えられておらず、法の実効性・公平性を欠く結果となっていることが指摘されています。法92条は「労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法の規定による司法警察員の職務を行う」とありますが、この規定を除いては、文言の違いはあっても労働基準監督官と専門官の間に「職務と権限」に違いはありません。
こういった状況は、私たちの追及により本年3月に安全衛生業務運営要領が改正され、一定明確になった部分はあるものの、基本的な問題は解決には至っていません。こうした状況を放置させていることは、業務運営を混乱させてきたばかりでなく、多くの労働者に対する迅速な安全衛生環境の確保を怠ってきたことを意味するものであり、的確な対策を講じなかった本省の責任は非常に大きいといえます。
今本省が行うべきことは、労働者の安全衛生環境という大局的な立場に立ち、少なくともこと安全衛生業務に関しては、専門官・技官に必要な職務権限を与えるとともに、措置基準を明確に示すことです。
●行政体制の整備は急務の課題
安全衛生行政にかかる監督署の組織体制についてみると、署の規模によって大きく異なるなど非常に曖昧になっています。安全衛生専課は、四方面以上の署や各局筆頭署、三課制署にはありますが、三方面以下の方面制署、二課制署においては、労災業務や監督業務と混在しており、明確になっていません。三課制署から三方面制署へ移行する際など安全衛生専課がなくなる(当局は一つの方面を専課的にするというものの、方面主任に専門官が就くことにはなりません)という矛盾さえを生じさせています。この指摘に応えて、近年は組織要求に安全専課の設置を条件とさせていることは、我々の指摘の反映といえます。
また、安全衛生業務の担当者の配置にも問題があります。本来、全署におかれるべき専門官が多くの署で未配置となっているばかりか、専門官・技官がきわめて少ないことから、安易に労働基準監督官を配置したり、事務官を無理矢理転官させて対応している現状も見受けられます。監督官が安全衛生にかかる指導監督を行うことは、法を遵守させていく立場からも当然必要なことですが、現在の状況は、監督官をいわばつけ焼けば的に"便利使い"させながら、体制を形作って技官を削減している状況にあります。
安全衛生の確保は、業種・規模を問わずにすべての事業場に存在する課題です。したがってすべての監督署の安全衛生行政にかかる行政体制についても、十全に確保されるべきですが、現在の行政体制の脆弱さについては目に余るものがあります。
●業務カット・簡素化が必要
元来、安全衛生業務は非常に多岐にわたっていますが、近年、THPなど労働者の健康保持増進対策や快適な職場環境の形成、危険有害(化学)物質の暴露防止対策、安全衛生マネジメントシステムの推進、過労死・過労自殺の防止に向けた対策なども加わるなど、その範囲は非常に幅広いものとなっており、同時に近年の科学技術の進展に即応した多様な専門性や、突発する重大災害、ダイオキシン対策など社会的問題に対する緊急の対応も求められるなど、その裾野がさらに大きく広がっている傾向が強まっています。しかし、前述のとおり人員が限られている中で、限界に至っています。そのような中で有効に安全衛生指導を行っていくためには、既存業務の業務カット・簡素化、業務の重点化について押し進めていく必要があります。
●安全衛生指導はどうあるべきか
これまで述べてきたとおり、技官の仲間は悩みながら日々の業務を行っています。組合員メモにおいては、このような状況を改善していくべきとの声が多く述べられる中で、なかなか状況が改善されない実態を反映してか、技μ芽官の将来についての展望をもてないとの声も多く上げられています。こうした声に応えるために労働組合として上記のような問題を早急に改善させていくことが求められています。同時に、今後の技官のあり方について、どうあるべきか私たち技官自らが真剣に考える必要があります。
労働災害の防止、健康確保は安全衛生行政の最大の目的で、そのための各種施策が行われていますが、労働者の立場から見た場合、実際の現場を直接見て、その状況にあった具体的かつ有効な改善指導を行う必要があります。
現在、安全衛生にかかる事業場に対する指導は、大きくは個別指導と集団指導に分けられます。集団指導は対象業種などについて絞り込み、一堂に集めて指導することで一定の行政効果を狙うものですが、当然ながら事業場毎の問題点は異なり、個別の事業場に内在する問題についての指導が行えるものではありません。したがって基本的には個別の事業場に赴いて、その事業場の問題点を自らの目で見ながら適切な個別指導を行うことが、当該事業場の労働者の安全衛生環境を確保するためには基本に据わるべき施策といえます。また、数多くの現場を見ることで、技官の資質が高まり、集団指導にも役立てていくといった相乗効果があることから、ここでは個別指導のあり方に絞り込んで研究することとしています。
個別指導を行う際に、現場で専門官・技官が実際に遭遇する問題は、「法違反に遭遇した場合の対応をどうするか」「具体的な指導事項・内容をどのように行うか」という点があげられます。前者については、指導できる権限を付与すべきであることを述べたところですが、ここでは後者について述べることとします。安全衛生環境の改善については、簡易な方法で改善が可能な事項もありますが、機械設備の改善など、多大な費用負担が生じる場合も少なくありません。実際に発生した事故に対する再発防止対策について、指導する場合は事業主に理解を得やすい面がありますが、災害は発生していないのに危険性を認識させて、納得を得て実際の改善につなげていくことはたやすいことではありません。実効ある安全衛生指導に向けては、次のような対応が必要であると考えています。
(a)専門官・技官の専門性の向上が喫緊の課題であることから求められていることから、そのことを念頭に専門官・技官に対する本省及び地方研修を充実・強化させる(専門性の向上)。
(b)専門官・技官の個別指導と、監督官の監督指導との位置付の明確化を行った上で、事業場に対する指導において、有機的な連携をはかる。
(c)安全衛生行政の範囲がきわめて広いことから、専門分野に特化した専門家の育成をはかり、専門的な対応が必要な場合には全国的な展開をはかる。
(d)災害が発生した場合の事業主が負うリスクについて明らかにする。また、事業主だけでなく、労働者の意識レベルが低い場合も見受けられることから、労働者に対する有効な教育指導を行う(安全意識の高揚対策)。
(e) 国機関であるメリットを生かして、労働基準行政システムの活用により好事例の情報交換、多くのアイデア、ノウハウなど指導事例を共有する(情報の共有化)。
※(a)(c)は、内部における対応について、(d)(e)は、外部に対する対応について重点とすべき対応を検討したもの。
現在、専門官・技官がおかれている状況は、本提言で明らかにしたように非常に厳しい状況があります。そうした状況を改善・克服していかなければなりませんが、専門官・技官が「積極的に外に出る」ことによって、労働者の安全衛生環境の改善という「結果」を出すことが、そこにつながっていくことでもあり、そのことが真に労働者・国民に信頼される行政につながることになることを確信しています
今後、さらに職場討議を重ね、真に労働者の利益につながる安全衛生指導のあり方はどうあるべきかについて、全国の仲間の議論により深めていくこととします。。