「労災補償行政の現状と問題点」
はじめに
労災補償行政は、労災(補償)給付、適用、徴収の各業務が有機的に関連しながら進められており、それぞれの業務は関係法令・通達(認定基準)に基づいて処理されています。
労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」)は、戦前、健康保険及び厚生年金保険による社会保険形式で行われていた業務災害についての保険制度、労働者災害扶助責任保険(昭和4年に始まる世界恐慌に伴う失業対策として土木事業の拡充が行われ、これに伴う土木建築業に対する災害扶助制度)を抜本的に転換させ、昭和22年、労働基準法とセットで制定されました。改善点は、(a)労働基準法第8章「災害補償」に労働災害に対する事業主の無過失賠償責任の理念が定められ、補償は労働者の権利であることが明記されたこと、(b)労基法の適用範囲を規模の大小を問わず全産業とされたこと、(c)業務上の災害に対する保障の内容が拡充されたこと、(d)災害補償の基礎となる賃金の範囲が拡大されたこと、などがあげられます。
このように労災保険法は、大規模災害の発生や資金融通等のために事業主が災害補償責任を履行できなかったり、災害補償が遅れたりすることを避け、被災労働者に迅速かつ公正な保護を行うための災害補償の確保と労働者の福祉向上、事業主の災害補償責任の完全履行を図る制度として設けられています。
こうして労災保険法の目的は、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、傷害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする」(第1条)と定められ、「被災労働者保護」が制度理念の核心となっています。
労災保険制度は、労災補償制度を通じて、全ての人間が人間らしく幸福のうちに生きる権利(憲法第13条「幸福追求権」)、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法第25条「生存権」)、人たるに値する労働条件の下で人間らしく働く権利(憲法27条「勤労権」)を具体化したものであり、「憲法の理念とりわけ生存権理念に立脚して展開されるべき」との考えを、全労働は過去の行研活動の中で打ち出しています。こうした憲法理念に立脚した労災補償制度の考え方は、現行制度の運用、今後の制度議論において最大限重視しなければならない視点といえます。
監督署の窓口業務を担当する仲間は、労災保険法等によって業務処理を行いますが、行政体制の不十分さと相まって事案の複雑・困難さが職場での悩みの一つとなっています。また労災給付事案は、社会的にも関心が高く認定業務は担当する仲間が最も神経をすり減らす業務の一つとなっています。全労働が第一線職場で実際に労災補償行政に携っている職員のアンケートでは、近年の労災各種給付請求書の処理にかかる負担については、「増えている」が69.5%であり、その要因は「事案の複雑・困難化」が82.8%となっています。各種給付にかかる事案では、事案の中身が複雑・困難化していることが伺え、そのもっとも大きな比重を占めているのは「業務上外の認定」で73.4%となっており、次に「労働者性の判断」が21.7%という結果になっています。これらの問題点を解決するには「認定基準の明確化」や処理を行うために「増員による業務処理体制の拡充」が求められています。
「業務上下の認定」について考えれば、労働者にとって仕事中に負傷し、または病気になったとき「どういう範囲のものまで、またはどういう要件を備えていればどの程度の労災補償給付がうけられるのか」という範囲を法律に具体的に規定すべきですが現行法では、労災補償給付を受けられる範囲は労基法第75条の規定で「業務上負傷し、または疾病にかかった場合」の規定があります。労災保険法では第1条で「業務上の事由による労働者の負傷、疾病、廃疾または死亡」と規定しているだけで業務上の疾病に関する労基法施行規則35条の規定を除けば、ほかに法律上何も規定はあません。したがつて業務上の負傷であるかはどうかは現行法のもとでは行政解釈に委ねられておりいくつか問題点を包含しています。
(a)行政解釈(厚生労働省の通達や認定基準等)が労災保険の支給決定行為を通して決定的に大きな役割を果たしていること、(b)行政処分(決定)に対して不服審査請求を申し立てても、労災保険審査官は行政解釈には拘束されないものの、行政の認定基準を物差しに判断することが多いことから、行政訴訟を起こす以外にすべがないこと。(c)行政訴訟で国が敗訴しても、認定基準等の改正までには相当の時間を要すことから、改正までの間は従来の認定基準等で現場の業務が進められることなどがあげられます。
いま私たちは、「認定基準」を始めとする制度の問題点、労働者保護を進める労働行政の果たすべき役割、めざすべき労災補償行政のあり方、などについて検討するとともに、その要求と課題の実現・解決にむけて、脳心疾患の「新認定基準」と精神障害に係る認定基準などをはじめ腰痛、頸肩腕障害の認定基準の問題点、適正給付管理業務の現状と問題点、適用業務の現状と問題、業務を行う行政体制上の問題点、などについて研究を行います。
第1章 労災認定基準をめぐる問題について
1、認定基準問題を検討する視点
1)労災職域組合員アンケートの全国集計結果では、7割の組合員が給付決定業務における負担が「増えている」と回答し、その要因としては、8割の組合員が「事案の複雑・困難化」を挙げ、複雑・困難化した業務のうち7割の組合員が「業務上外の認定」と回答しています。
平成15年6月10日付け厚生労働省発表、「脳・心臓疾患及び精神障害に係る労災補償の状況について」によれば・脳・心臓疾患の労災補償の状況は、請求件数が前年度に比べ129件増で819件であり、業務上として認定された件数が317件、・精神障害に係る労災補償の状況は請求件数が前年度に比べ76件増で341件であり、業務上として認定された件数が100件、となっています。いずれも請求件数が増加しており、「事案の複雑・困難化」を象徴しています。
また、労災職域組合員アンケートでは、給付の迅速・適正処理を行う上で必要な対策として「認定基準の明確化」と回答した組合員も68.4%と、「増員などの業務処理体制の拡充」(61.9%)を超え最上位となっており、認定基準をめぐる問題は現在職場が直面している最大の問題であることが明らかとなりました。
現行の認定基準が複雑困難化する請求事案に対応できる基準となっているのか、複雑困難事案が多いとされる業務上疾病の認定基準を中心に、認定業務を通じての問題点を検証しながら、改善の方向を探りたいと思います。
2) 認定基準の改善方向を探る上で注意を要するのは、労災給付の効率的処理を追求する観点からの「認定基準の明確化」を求める意見をどのようにとらえるかという問題です。
例えば、後に検討する非災害性腰痛や上肢障害の認定基準における業務量・作業従事期間のように、業務の過重性の程度を測定するための数値的基準が設けられることがありますが、そうした基準は合理性・科学性がなければ適正な認定にはつながりません。基準の数値化は、効率的な処理を可能とする反面、(a)機械的・形式的に認定基準に当てはめることで誤った結論につながる、(b)現行制度の枠内で最大限被災労働者の利益を追求する運用の幅が狭まる、(c)労災認定業務の専門性を低下させる、など労災補償行政の本質に関わる問題につながる危険性も含んでいます。現在の厳しい職場体制の下で、給付業務の効率化の観点から「認定基準の明確化」を求める声が上がってくることは一定理解できますが、「認定基準の明確化」は、迅速・効率的処理の視点だけでなく、被災労働者保護の運用を行う視点で行われるべきと考えます。
3)認定基準の根本的な問題として、業務上災害の範囲や認定の要件が行政解釈を具体化した通達・認定基準に委ねられ、法律に明記されていないという問題があります。全労働は、早くからその問題点を指摘してきました(1983年、「労災法改正検討委員会報告」)。
労働災害を被った場合に、「どの範囲の災害であれば補償を受けられられるのか」「どういう要件が備われば業務上災害となるのか」、被災労働者にとっては大変重要な問題であり、労災給付の権利的な性格をふまえれば、そうした点を一定法律のレベルで明確にする法改正が将来的に求められていることはいうまでもありません。しかし、法改正がないからといって現行の法制度の枠内で被災労働者保護の運用を追求する努力を怠ってはならず、そうした観点から、今回は現行の枠組みの中で行政の判断で改定できる認定基準の問題や行政運営上の問題を検討することにします。
以下、具体的にいくつかの業務上疾病に係る認定基準の問題点を検討します。
2、脳・心臓疾患に係る「新認定基準」の問題点
1) 認定基準改定の背景
2001年12月、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(以下「脳心新認定基準」)が示されました。その最大の特徴は、これまでの発症前概ね1週間に「異常な出来事」「特に過重な業務」等の過重負荷が認められる場合に加え、新たに「長期間の疲労の蓄積」を過重負荷の要因と認めたことです。そして同時に、「疲労の蓄積」による過重負荷の判断基準として、評価期間「発症前概ね6ヶ月間」の時間外労働の目安基準((a)発症前16カ月の期間に1月あたり概ね45時間を超える時間外労働が認められなければ発症と業務との関連性は弱い、(b)月45時間を超えて時間外労働が長くなるほど業務との関連性が徐々に強まる、(c)発症前1月間に概ね100時間、発症前26カ月の期間に1月あたり概ね80時間を超える時間外労働があれば業務との関連性が強い)を示しました。
今回の認定基準改定は、業務による長期間の疲労の蓄積が脳・心臓疾患を発症させたかが問われた2つの最高裁判決(2000.10.17)に国が敗訴したことを背景に、厚生労働省の専門家検討委員会での医学的検討に基づき改定されたものであり、被災労働者と家族、それを支援する諸団体によるたたかいの成果という点と、長時間労働による疲労の蓄積と脳・心疾患との因果関係が医学的に立証され、認定基準の客観化・明確化とあわせて過労死予防の対策(「過重労働による健康障害防止のための総合対策」)を示させた点で、極めて積極的な意義を有します。
この新たな認定基準の積極面を活かし、まずは、いかに被災労働者保護の観点での運用を行うかが問われています。
2) 「脳心新認定基準」に対する第一線職場の受け止め方〜アンケート結果より
第一線職場では、「脳心新認定基準」はどのように受け止められているのでしょうか。
「脳心新認定基準」に対する第一線職場の受けとめ方は、「積極的に評価できる」と「評価できる」をあわせて28.9%で、「評価できない」はわずか5.6%であり、業務経験者からは概ね肯定的な評価を受けているようです。「評価できる」点としては、「業務上外の判断がしやすくなった」(57.4%)、「被災者の救済が進む」(17.2%)、「迅速認定が可能になった」(11.2%)という結果となり、「脳心新認定基準」が迅速処理に一定貢献していることが明らかとなりました。
「どちらともいえない」(29.7%)も相当数にのぼりますが、「評価できない」も含め評価保留、否定的評価が一部あるのは、「脳心新認定基準」に基づく認定業務に問題点があることの現れです。「評価できない点」について、「調査が複雑になった」(41.7%)、「業務上外の判断がしにくくなった」(22.2%)と指摘されていますが、記述回答欄に様々な具体的問題点が指摘されています。指摘されている点も参考にしながら、主要な問題点について以下検討します。
3) 「脳心新認定基準」における問題点と課題
ア、時間外労働の目安基準をめぐる問題
時間外労働の目安基準は、発症前6ヶ月の間に月80〜100時間の時間外労働が認められる場合には業務上認定を行いやすくなった反面、その時間数に満たない場合には、機械的に認定基準にあてはめ形式的な判断が行われれば業務外との判断につながることになります。
時間外労働が月80〜100時間超えの場合でも、あえて「就労実態は多種多様」として「監視・断続的労働」「手待(待機)時間が多い労働」などは直ちに「特に過重な業務」と判断するのは適切でないとする断り書きを入れながら、月45時間未満の時間外労働では、「この労働時間のみから特に過重な業務に就労したと見るのは困難」とし、事実上「一律排除」となる表現となっています。
しかし、新認定基準で負荷要因とされた「疲労の蓄積」は長時間労働が睡眠不足など疲労の回復を妨げるとの考えから追加さ れたものであり、例えば時間外労働が月45時間未満であっても労働密度・ストレスが強い場合、不当配転など労働者の責めに帰すことのできない理由で長時間通勤を余儀なくされ帰宅時間が遅くなる場合などについては認定上考慮すべきと考えます。
また、月45時間以上80時間未満の時間外労働の場合も、月80時間から遠ざかるにつれ他の負荷要因の寄与度が重用視されるとしていますが、他の負荷要因については客観的基準が明確にされてい?ないため業務上認定は極めて困難となってきます。その場合でも、以下に検討する交替制勤務・深夜労働や出張業務をはじめ脳・心疾患にとって危険因子とされる他の負荷要因を綿密に調査し、被災労働者保護の観点から総合的な判断を行う必要があります。
イ、交替制勤務・深夜労働の評価について
交代制勤務・深夜勤務について認定基準は、「負荷要因」としながら、「勤務シフトの変更の度合い」「深夜時間帯の頻度」などを重視しています。さらに留意通達では、「直接的に脳・心臓疾患の発症の大きな要因になるものではない」として、日常業務として交代制勤務・深夜勤務が行われている場合は「日常生活で受ける負荷の範囲内」とされています。これでは、不規則な勤務形態の下で日常生活のリズムや生体リズムを狂わせる交替制勤務や深夜勤務が健康に及ぼす危険因子としての性格を十分認識しないまま、形式的な判断に陥る危険性があります。 深夜勤務については、「脳心新認定基準」の基となった専門家検討委員会報告の中でも「夜遅くや主に夜間・早朝に働く労働者の虚血性心疾患のリスクが高い」との医学的調査結果が報告されており、労働者の健康に与えるリスクは通常の労働者よりも高まることは明らかです。
そもそも人間には「既日リズム」というものが組み込まれ、目や皮膚で感じる光などの情報に基づいて脳が血管とかホルモンの分泌を調整しており、深夜労働ではこの仕組みが壊れてしまうことから健康(特に循環器系疾患)に有害と、医学的にも指摘されていました。1995年には、産業衛生学会が、深夜業と循環器疾患の因果関係を肯定的に認める「職場の循環器疾患とその対策」という調査結果を明らかにしています。
したがって、深夜勤務や深夜勤務を含む交替制勤務に含まれるリスクが正当に評価される認定基準に改めるべきでです。
ウ、出張業務の評価について
認定基準上、出張業務や海外出張等における時差を「負荷要因」と位置づけていますが、最近、出張業務を伴う労働者の心疾患の業務上外が争われた裁判で国が敗訴し、原処分取消で確定した判例がでています。
一つは、1日の労働時間は長くないが頻繁に長期間の国内出張を伴うスポーツ新聞記者の事例(東京地裁判決、14年2月27日)です。業務上との判断に至った負荷要因としては、著しく出張業務が多い上にその期間が長い、他社の記者に比べ圧倒的に執筆量が多い、取材・執筆・送稿を滞らせないための精神的な緊張感、1週間の労働時間は平均7時間20分強だがホテル内での業務を含め労働時間は相当上回っていた、出張中のホテルは自宅と環境が異なり精神的・肉体的に負担がかかる、などの点です。この事例でいけば、現行の「脳心新認定基準」に基づき時間外労働の目安時間だけをもって判断すれば業務外とされるだろうし、出張業務についても業務の質の面を含め負荷の程度を綿密に評価しないと総合判断を誤ることにつながることを示しています。
もう一つは、連続6日間の国内外出張を含む連続13日間勤務の末に心疾患を発症した営業マンの事例(東京高裁判決、14年3月26日)です。この事例の判決では、出張業務を「列車、飛行機等による長時間の移動や待ち時間を余儀なくされ、それ自体苦痛を伴うものである上に、日常生活を不規則なものにし、疲労を蓄積させるもの」と危険因子としての性格をとらえた上で、発熱を押して勤務して以降の出張を含む業務は極めて過重と認定し業務上との結論が出されています。
以上の事例を通じて言えることは、出張業務を「移動時間中は自由」「宿泊先で十分休める」などと負荷要因としての位置づけを軽視し、形式的な判断を行えば判断を誤るということです。後者の判決のように、そもそも出張業務に内包された危険因子としての性格を十分認識したうえで事実認定を行うことが重要であり、認定基準上その位置づけが明確にされる必要があります。
エ、相当因果関係論をはじめ労災認定理論について〜判例理論との関係で
「脳心新認定基準」は、「業務による長期間の疲労の蓄積が脳・心臓疾患を発症させたかどうか」が問われた2つの最高裁判決(2000年10月17日)によって国が敗訴したことがきっかけとなって見直しが行われました。しかし、同最高裁判決との関係でみても、(a)「基礎疾患を自然経過を超えて増悪させ」と、旧基準の「自然経過を超えて急激に著しく増悪させ」の「急激に」「著しく」を要件としなかった、(b)過重負荷の評価期間を発症前約1年5カ月の期間の業務を評価している等、判例の到達点が反映されていない点があります。
この間集積された判例の到達点との比較で、今回の「脳心新認定基準」の残された検討課題は何かを明らかにする必要があります。
かつて、全労働は、「過労死等検討委員会報告過労死認定基準の改善と予防のために」(1995年)を発表し、豊富な判例研究を基に過労死認定基準の改善案を明らかにしました。その際の判例分析で明らかにされた到達点について、(a)行政解釈である相対的有力原因説は否定され、基礎疾患が原因であっても業務が共同原因(共同原因説)であれば相当因果関係が認められる、(b)業務過重性の判断は、同種・同僚労働者との比較ではなく、発症した当該労働者にとって過重であったかどうかを判断している、(c)業務過重性の判断を行う期間は限定せず、長期間にわたる疲労の蓄積やストレスを過重性の内容としている、(d)相当因果関係は厳密な医学的、自然科学的証明ではなく、業務と疾病との間に行動の蓋然性が証明されれば足りる、とまとめています。その後の裁判例においても、判例理論は基本的には同様の流れになっているだけでなく、最高裁判例のレベルで同様の解釈が示されています(別記)。その中で展開されている相当因果関係理論の到達点を、長年「過労死」関係の裁判を担当し、研究を重ねてこられた岡村親宜弁護士の分析を基に整理すると次のとおりです(労働法律旬報1523参照)。
(a) 業務上の要因と業務以外の要因が競合する場合でも、業務上の要因が相対的に有力な原因である必要はなく、業務による精神的、肉体的負荷が血管病変等を「自然経過を超えて増悪させた場合」は業務と疾病発症との間に相当因果関係が認められる。
(b) 業務の過重性を認めるためには、通常業務が支障なく遂行できる同種・同僚労働者を基準として過重である必要はなく、血管病変等を有する被災者本人にとって過重であると認められれば足りる。
(c) 医学経験則ではなく、一般経験則により、被災者の業務が血管病変等を自然経過を超えて増悪させ疾病を発症させるおそれのある高度の蓋然性を有しているかによって相当因果関係を肯定している。
(d) 発症前約1年半の業務を対象に業務過重性を評価し、その間の疲労の蓄積や継続的ストレスによる負荷を疾病の要因と認めた。
(e) 業務従事中に業務外の脳・心臓疾患を発症し、直ちに安静を保ち適切な治療を受ける必要があったのに引き続き業務に従事せざるを得なかったため死亡に至った場合も、業務と死亡との相当因果関係を認めている。
以上のように、全労働が過労死問題検討委員会報告で認定基準に反映させるべきとしてきた判例の到達点が、いよいよ最高裁判決の中で示されたといえます。要約すると、相当因果関係は、(a)業務が疾病発症の共同原因と認められるか、(b)その業務が被災者本人にとって過重であったか、(c)一般経験則に基づき業務が血管病変等を自然経過を超えて増悪させ発症に至ったと考えるに足る高度の蓋然性が認められるか、に基づいて判断すればよいこととなります。これによって、行政解釈である「相対的有力原因説」に基づく相当因果関係論が否定されましたが、本省当局は、(d)の「疲労の蓄積」の評価については認定基準に一定反映させましたが、それ以外の部分についてはいまだ従来解釈を変更していません。最高裁判例によって、相当因果関係の理論が法令解釈として確定したことを受けて、判例の到達点を反映させた認定基準の理論と内容に改めるべきです。
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│【別記】 │
│・岡山地公災・水川ケースワーカー心筋梗塞死事件、最二小判決1994.6.16 │
│・国・山内郵便局副課長脳出血死事件、最三小判決1996.1.23 │
│・愛知地公災基金・岡林小学校教諭特発性脳内出血事件、最三小判決1996.3.5 │
│・大館労基署・白沢電気工脳血管疾患死事件、最三小判決1997.4.25 │
│・西宮労基署・織田観光バス運転手高血圧性脳内出血事件、最一小判決2001.7.17 │
│・横浜南労基署・岩村自家用運転手くも膜下出血死事件、最一小判決2001.7.17 │
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4) 認定業務における問題点と課題
現場からは、「脳心新認定基準」を「評価できない」とする理由に補償調査の問題を指摘する意見が多く、具体的には、(a)調査対象期間の発症前6ヶ月間の労働時間・実態調査が必要となったこと、(b)出張が多い者の労働時間の把握が困難なケース、適正な勤務時間管理が行われていないケース等も少なくなく、そうしたケースの労働時間把握、などです。
(a)の点については、従来基準の発症前1週間程度に「異常な出来事」「特に過重な業務」が明らかに認められる場合には発症前1週間程度より後の調査は省略することは可能とされていますが、現場の意見をふまえた調査様式の簡略化を検討する必要があります。
(b)の点については、最終的に被災労働者の家族の証言以外に労働時間が把握できるものがなかった場合を含め労働時間の客観的把握が行えない場合、事業主に労働時間の適正把握に係る責任を課している(いわゆる「労働時間適正化」通達)ことからすれば、被災労働者サイドに立証責任を課すことは不適切です。そうした場合は、家族の証言等を基に時間外労働時間を推認するなどの対応策が求められています。
5) 「過労死」等の予防に関連して〜安全衛生行政との連携
労働者が自らの労働等によって命を落としたり重度の障害を背負うといた最悪の事態は、当然ながら発生以前に予防することが肝要です。特に、「過労死」等の予防は、いかに実効ある長時間・過密労働の抑制、労働時間短縮にかかわる指導・監督が行われるかがカギとなります。
「脳心新認定基準」とあわせて、認定基準上の時間外労働の目安基準とリンクした内容で指導基準を盛り込んだ「過重労働による健康障害防止のための総合対策」が示されたことから、その部分での安全衛生行政との具体的連携が求められています。具体的には、労災事案を通じて労働時間が適正に把握されていない事業場や脳心事案を発生させた事業場については、監督・安全衛生部門に情報提供を行い、重点的指導を行うなどの連携を強化すべきです。
3、精神障害に係る「判断指針」の問題点
1) 「判断指針」の概要
1999年9月、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(以下「判断指針」)が示されました。「判断指針」以降、請求件数も年々増加し、認定例が蓄積されるとともに、いくつか裁判例も出てきています。 精神障害の業務上外の判断は、(a)対象疾病に該当する精神障害(国際疾病分類ICD-10)を発症していること、(b)対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、客観的に当該精神障害を発症させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること、(c)業務以外の心理的負荷及び個体側要因により、当該精神障害を発症したと認められないこと、のいずれの要件も満たす場合業務上の疾病と扱うこととされています。具体的には、発症前6ヶ月間の心理的負荷の有無・程度を調査し、「職場による心理的負荷評価表」に基づき、(a)出来事の心理的負荷が3(強)で「出来事に伴う変化等」の心理的負荷が相当程度過重か、(b)出来事の心理的負荷が2(中)で「出来事に伴う変化等」の心理的負荷が特に過重、に当たる場合に「強」と判断され、業務以外の心理的な要因や個体側の要因が認められなければ、業務上と認定されます。
また、従来「自殺」は故意によるものということで労災給付の対象にはなりませんでしたが、「判断指針」では、うつ病等特定の精神障害の場合「自殺念慮が出現する蓋然性が高い」として、正常な認識、行為選択能力、自殺を思いとどまる抑止力が著しく阻害された状態(故意の欠如)に陥ったと推定し、原則として業務起因性が認められる、こととなりました。 こうした複雑な手順に基づく認定業務は、(a)業務上の心理的負荷が複数以上認められる場合の負荷強度や、業務上及び業務以外双方に心理的負荷が認められる場合の「総合評価」など心理的負荷強度の判断、(b)受診歴がない自殺事案のケースにおいて「精神障害発症日の特定」と「発症前6ヶ月のをいずれの期間でとらえるか」の判断、(c)被災労働者が生存しているケースで精神障害に罹患している被災労働者との対応、など様々な困難性が指摘されています。
2) 「判断指針」に対する現場の受け止め方〜アンケート結果より
アンケート結果では、「積極的に評価できる」(0.6%)、「評価できる」(14.3%)の合計は14.9%、最も多かったのは「わからない」(38.4%)となっており、「脳心新認定基準」よりも評価している人の割合が少なくなっています。このことは、まだまだ精神障害事案の件数が少なく未経験者が多いことと、アンケートの記述部分にも一部書かれていたように自?殺や精神障害を労災と認めることに抵抗がある職員がいることを示しているように思います。精神障害は、決してストレスに対し脆弱な者だけに(個体側の要因で)発症するのではなく、「ストレス社会」の中で健常者も含めて「誰でも起こりうる疾病」と言われています。そうした精神障害という疾病に対する理解や業務上の精神障害や「判断指針」の考え方に対する理解を深めるための研修が求められています。
「評価できない」が僅か6.3%となっているように、精神障害の認定業務を担当した組合員の中では「業務上外の判断がしやすくなった」(55.2%)と肯定的な評価を行っている人の方が多くなっています。しかし、「評価できない」理由として「調査が複雑になった」(42.1%)、「業務上外の判断がしにくくなった」(31.6%)をはじめ様々な問題が指摘されるとともに、「どちらともいえない」(32.8%)と評価保留の方もおられます。
これは、「判断指針」がなかった時代よりは一歩前進といえますが、「判断指針」にまだまだ多くの問題点が含まれていることを示しています。具体的な問題点は記述回答欄にも示されており、そうした意見を参考にしながら、以下主要な問題点を検討
します。
3) 「判断指針」に基づく認定業務の問題点・課題
ア、心理的負荷の評価をめぐる問題
「職場における心理的負荷評価表」は、精細に項目が設けられているようで判然としない部分もあります。そもそも様々な症例がある精神障害を一律の基準で判断するのは困難であり、基準の明確化には限界があります。その意味では、負荷評価にあたっては、心理的負荷評価表の形式的な適用ではなく、労働者の実態に即した総合的な負荷評価が行われることが重要です。
業務上の心理的負荷は「仕事上の責任」「仕事量の増加」「長時間労働」など複数の要因が複合して負荷となるケースが想定されますが、そうした場合の総合評価は明確ではなく、総合評価2と判断されれば業務外と切り捨てられることになります。したがって、負荷強度2の負荷要因が複数以上認められる場合は、業務上の総合評価は3(強)と判断すべきです。また、負荷強度1 2の負荷要因が複数認められる場合も総合評価3となる蓋然性が高くなるとの認識に基づいて評価を行うべきと考えます。
引き続き、「判断指針」後の認定事例を検証し、より実態に則した評価表、評価手法となるよう必要な改善を図るべきである。
イ、調査手法等に関わる問題
調査手法に関わっては、現場からの問題点の指摘に基づき次の点を改善すべきと考えます。
◇受診歴のない自殺事案での対応にかかわっては、調査課程の早い段階から局又は精神部会医員に相談できるよう体制整備を行う必要があります。
◇精神障害に罹患している被災労働者本人への聴取調査、面接等は原則複数対応とするなど組織的な対応を行うべきです。精神障害の程度によっては、カウンセラー的な役割も求められることをふまえ、そうした場合の対応に関わる専門的な職員研修を行うか、プロのカウンセラー、医師などの立ち会いを求めるなど調査に必要な条件整備が必要と思われます。
◇業務以外の心理的負荷要因を明らかにするための調査では、被災者のプライベートな事項にも触れることになり、どのあたりまで調査を要するのかとの指摘もあります。家族を含む関係者からの聴取調査は協力を得られる範囲にとどめ、被災者や家族の尊厳やプライバシーを侵害しないよう注意が必要です。
◇煩雑な調査様式(様式1〜4)を簡略化する必要があります。
4) 判例を通じて明らかとなった「判断指針」の問題点
トヨタ自動車の設計技術者の過労自殺事件に関する名古屋高裁判決(2003.7.8)は、一審判決に続き、被災者のうつ病発症を業務上に起因するものと認め、監督署の不支給決定を取り消す判決を下しました(被告は上告を断念し確定)。
今回の判決は、「判断指針」が出されて以降初めての判決となり、「判断指針」の心理的負荷評価のあり方も問われました。一審判決では、心理的負荷の判断基準について「性格傾向がもっとも脆弱である者」を基準とすべきと明確な考えが示されましたが、この点高裁判決は、「認定基準はもともと幅があり、…平均値の中に下限値(性格傾向が脆弱である者)も含まれる」と、事実上「性格傾向が脆弱である者」との比較で過重を判断すればよいことを認めました。このことは、過重性の判断、心理的負荷の評価を「平均的労働者」「健常者」と比較?するなど、同種労働者を限定的に解釈し、機械的な運用を行うべきでない、ということを示しています。
また、一審判決が、精神障害発症以降の過重労働と症状の悪化についても評価した点も、「判断指針」に問題を投げかけています。現在の判断基準では、自殺事案においても精神障害に発症していることが要件とされているため、精神障害の発症日を特定し、発症前6ヶ月に当該精神障害の発症の原因となった業務上の心理的負荷(「強」程度)が認められることが「業務上」判断の要件となります。しかし、本件のように、精神障害発症から自殺までに一定の期間がある場合は、発症日前の心理的負荷は「中」程度であっても、発症後も引き続き業務を継続したことで業務上の心理的負荷がかかり、その負荷も加味すれば「強」と判断すべき場合もあり得ます。したがって、受診歴のない自殺事案では、「自殺前」の心理的負荷が総合的に評価できるよう「判断指針」を見直すべきと考えます。
4、腰痛の認定基準の問題点
職業性疾病の中でも腰痛は毎年コンスタントに請求があり、あらゆる産業・職種の労働者に発症している疾病といえます。業務上の腰痛には、災害性腰痛と非災害性腰痛の2分類があり、昭和51年に作られた認定基準(S51.10.16、基発第750号)に基づいて労災認定が行われています。しかし、実際の認定例の多くは、災害性腰痛と認定する例が多く、非災害性腰痛としての認定はごく希に見られる程度です。また、明らかな「災害性」が認められる事例では、請求人からの災害申述書のみの簡便な調査で迅速処理を行っているケースも少なくありません。こうした労災認定の実情は、次のような認定基準の仕組みに起因して生じていると考えられます。
1) 非災害性腰痛の認定基準では、(a)概ね3ヶ月から数年以内の短期間に「概ね20s程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務」や「腰部に極めて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務」などの腰部に負担のかかる業務に従事したために発症した腰痛、(b)概ね10年以上の長期間に「概ね30s以上の重量物を労働時間の3分の1程度以上取り扱う業務及び概ね20s以上の重量物を労働時間の半分以上取り扱う業務」に従事したために発症した慢性的な腰痛、と認められる場合に業務上疾病と認定される仕組みになっている。しかし、こうした細かな基準で過重性を判断できる業務は実体上ほとんどありえないうえに、認定を受けるためのハードルが極めて高くなっています。そのため多くの補償業務担当者から「認定基準として使えない」との声が出されています。
2) 災害性腰痛の認定基準では、「突発的なできごとで急激な力の作用により内部組織の損傷を引き起こすに足りる程度のものが認められること」とあり、例えば「重量物の取扱いに当たってその取扱い物が予想に反して著しく重かったり、軽かったりするときや、重量物の取扱いに不適当な姿勢をとったときに脊柱を支持するための力が腰部に以上に作用した場合」などが例示されています。例えば、慢性的な腰痛であっても、一般的には業務における何らかの動作が契機となって腰痛を発症する例が多いために、また一方で非災害性腰痛の認定基準に基づく実態把握が困難なために、この災害性腰痛の基準をもとに認定することが多いようです。
こうした腰痛認定の現状から、いかに実際の被災例と認定基準が乖離しているかが分かります。腰痛の認定基準は、いまだに昭和51年に作られた古い通達を使用しており、その後の被災例や最新の医学的な研究成果をもとに業務上腰痛が発症する作業態様や発症のメカニズムを分析し、被災実態に見合った認定業務に資する認定基準に改善していくべきです。
具体的には、実際の認定例や裁判例では、基礎疾患の有無に関わらず、腰部に負担を与える業務・作業、非生理的な作業姿勢等が契機となって腰痛を発症すれば業務上と判断されている例が多い現状をふまえ、「災害性腰痛と非災害性腰痛の別をなくし、(a)一般的に腰痛を発症すると考えられる程度の腰部に負荷を与える業務・作業・動作等が契機となって発症したと認められること、(b)既往症の有無及び程度を確認し、明らかに私病が原因と認められない、と判断できる場合は業務上」とする方向で認定基準を改めるべきと考えます。
5、頚肩腕障害の認定基準の問題点
上肢障害の認定は、平成9年に改定された認定基準(H9.2.3、基発第65号)に基づいて行われています。この時の改定によって、発症前の業務量のほか作業の質的要因もあわせて評価することや、腱鞘炎などは比較的短期間で発症することがある、との点が付け加えられるなど、一定の改善が行われました。
しかし、認定事例をみると、認定基準が被災実態にあわない部分が認められます。
上肢障害の認定要件は、(a)上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること、(b)発症前に過重な業務に就労したこと、(c)過重な業務への就労と発症までの経過が医学上妥当なものと認められること、のいずれをも満たすこととされています。
具体的には、業務以外の個体要因も検討したうえで、相当期間(原則6ヶ月程度以上)次の「過重な業務」が認められる場合、業務上と認定されます。
┌───────────────────────────────────────────┐
│1、同種事業場における同種労働者と比較して、おおむね10%以上業務量が増加し、その状態が│
│ 発症直前3ヶ月程度にわたる場合 │
│2、業務量が一定せず、次の状態が発症直前3ヶ月程度継続している場合 │
│ 1) 業務量が1ヶ月平均では通常の範囲内であっても、1日の業務量が通常の業務量のおおむ│
│ ね20%以上増加し、その状態が1ヶ月のうち10日程度認められるもの │
│ 2) 業務量が1日の平均では通常の範囲内であっても、1日の労働時間の3分の1程度にわた│
│ って業務量が通常の業務量のおおむね20%以上増加し、その状態が1ヶ月のうち10日程度認│
│ められるもの │
│ 3、1及び2の業務量の面から直ちに判断できない場合であっても、通常業務を超える一定の負│
│ 荷が認められ、次の要因が顕著に認められる場合、それらの要因も総合して評価する │
│ 1) 長時間作業、連続作業 │
│ 2) 他律的かつ過度な作業スペース │
│ 3) 過大な過重負荷、力の発揮 │
│ 4) 過度の緊張 │
│ 5) 不適切な作業環境 │
└───────────────────────────────────────────┘
しかし、実際の認定例は、「3を含めた総合判断」あるいは「1・2は認められないが3に定める負荷によって判断」に基づいて「過重な業務」を認定している例がほとんどで、上記1及び2の業務量比較に基づく認定例は少ないようです。そうした労災認定の現状から次の点を改善すべきです。
1) 被災者の具体的業務を、規定しているような細かな業務量比較を行うことは事実上不可能に近く、これではほとんど業務上外の判断ができません。また、通常業務そのものが「過重な業務」になっていることも考えられます。したがって、純粋に発症前における被災労働者の業務量、業務内容、従事期間などを純粋に把握し、それらを総合的に判断し、疾病を発症させるに至った「過重な業務」であった場合に業務上と認定できる認定基準に改めるべきです。
5) 同種労働者との比較は実体上も技術的にも困難であるということだけでなく、同種労働者と同程度の業務量であっても当該労働者の業務が負荷となって上肢障害を発症しうることは多くの認定事例、裁判例が示しています。また、そもそも被災労働者の業務の過重性を判断するのに同種労働者の業務量との比較を行う必要があるのか疑問です。仮に同一の業務量であっても、個々の労働者ごとの作業条件・環境や身体的条件の差違によって負荷の程度は異なってきます。
裁判例では、例えば、スチュワーデスに発症した頚肩腕障害及び腰痛の業務起因性が争われた事件にかかわる東京高裁判決(2001.9.25)においても、「平均な業務に従事したむ程度では頚肩腕症候群や腰痛が発症しないとの根拠はない・・・・同様の負荷があっても発症に至る者とそうできない者がいるという個体差、感受性の差違があることは否定できない」として、「同僚の業務量との比較においてとくに過重とはいえなくても、症状発症に至る経過、客室乗務員としての業務が腰や腕部に与える影響、これらについての医師の見解等を根拠に業務に起因するものと認められる」と判示し、被災労働者本人を基準に過重性の判断を行っています。
したがって、「過重な業務」か否かの判断は、被災労働者本人にとって過重であったかによって判断できるよう改めるべきです。
第2章 適正給付管理業務の現状と問題点
労災保?険における治療の打ち切りは、基本的には主治医の「治ゆ」又は「症状固定」の意見等によって判断することとなっていますが、現実には労働災害による傷病が完全に「治ゆ」することは少なく、「症状固定」の判断によって治療を打ち切り、残存した後遺障害に対して障害(補償)給付を請求するという事案が一般的となっています。
しかしながら、被災労働者にとっては、この「症状固定」の考え方(医学上、一般に承認された治療法方をもってしても、その効果が期待し得なくなった状態で、かつ、残存する症状が自然経過によって到達する最終の状態に達したとき)は理解されにくく、残存している症状を少しでも改善したいと希望することや、多くの場合、治療の打ち切りは休業(補償)給付の打ち切りとなるところから、ややもすれば、症状固定の状態になっても打ち切りができず、治療が長期化する事案も見受けられるところです。
1.適正給付管理業務について
現在行われている適正給付管理業務は、「適正給付管理要綱」(昭和59年8月3日付け基発第391号)により全国斉一的な実施が指示されているものであり、この通達発出の背景には、当時のマスコミ等による一部労災患者の治療の長期化に対する批判報道等もあり、「(労災患者の中には)必要以上の期間にわたり療養を継続しているなど、公正を欠くと見られるものが少なくない」との現状分析に立ったものでした。
その上で、1年以上の療養継続者を対象に個人別に管理し、医療機関や本人調査を実施した後、症状固定と認められるか否かの判断を行うよう指示されたものです。
私たちは、適正給付管理業務について、第20回労働行政研究中央報告《「適正給付管理」は、どうあるべきか》の中で、「労災補償制度は、憲法の理念『とりわけ生存権保障の理念に立脚して展開されるべき』であり、現行労災保険法上の『治ゆ』『症状固定』の概念をふりかざしての、一方的・一律的『打ち切り』には反対」との立場を明らかにすると同時に、「『いたずらに長期化』することを認めるものではなく、明らかに『治ゆ』『症状固定』の場合は、当然『治ゆ』『症状固定』として対処しなければならない」とし、「『目的もないまま、いたずらに長期化する』状態を作り出さないためにも、キメ細かな行政の側からの働きかけと、行政サービスの充実が求められていますし、社会復帰対策の確立をはじめ労災補償制度の改善が求められています」と指摘しています。
私たちの職場は、相次ぐ定員削減の強行や複雑・困難事案の増大等により、被災労働者に対する「キメ細かな行政の側からの働きかけ」や「行政サービスの充実」からは程遠い状況に陥っていると言わざるを得ず、そのような状況で、しかも、多くの問題を抱えた適正給付管理業務であっても、かろうじて支えようとしているのは、私たち組合員一人ひとりの「補償行政の公平性を保ちたい」という「使命感」にほかなりません。
組合員アンケートの中では、こうした一人ひとりの「苦悩」が如実に表れています。
(a) 被災労働者に対して、労災保険における「症状固定」の考え方を説明するものの、理解してもらえない。また、物分かりのいい被災労働者が「症状固定」となり、ゴネている者が給付を継続されることもある。業務の公平性に欠けるので、このようなことは排除したい。(b) 「症状固定」と思われても、その後も医療機関にかかりたいときは自費扱いとなるし、再就職もなかなか困難な社会情勢の中で、説明はできても期限を宣告するのはつらいものがある。(c) 相手に「引導」を渡す仕事は気が重く、抵抗を受けることも多いため精神的に負担が大きい。
2.社会復帰対策の充実・改善について
一般傷病患者にしても、振動障害患者にしても、療養が長期化する背景には、「打ち切り後の生活保障に対する不安」や「社会復帰の困難性」等が存在します。
私たちが望む適正給付管理業務は、被災労働者の症状を適正に把握した上での、こうした不安等の払拭のためのキメ細かな行政の側からの働きかけや、行政サービスの充実そのものであり、そのためには、社会復帰対策の確立をはじめとした労災補償制度の改善を求めるものです。
一般傷病患者であれ、振動障害患者であれ、労災補償制度が被災労働者の対して公平であること、また、一般労働者の労働条件や他の社会保障制度に照らし均衡の取れた制度であること等は、行政に携わる私たち組合員一人ひとりの当然の考え方であり、こうした意味での行政の公平性確保の観点からも適正給付管理業務のあり方等?について検討を重ねる必要があります。
現在行われている被災労働者の就職促進に関連する事業は次の7種類です。
ア、現行制度の概要
(a)振動障害者社会復帰援護金
対象傷病振動障害
支給対象被災労働者
支給要件振動障害が治癒した者が社会復帰するとき
支給内容治癒日に65歳以上の者は給付基礎日額の120日分
65歳未満の者は給付基礎日額の200日分、限度額300万円
(b)振動障害者職業転換援護金
対象傷病振動障害
支給対象下記の事業主
支給要件振動障害者が軽快した者又は治癒した者を事業主が振動業務以外の業務に再就労 させた場合又は新たに雇い入れるとき
支給内容労働者に支払われる賃金の3分の1(中小事業主は2分の1)
限度額は月額8万円(中小事業主10万円)、支給月額は通算12ヶ月間
これに付随して「訓練、講習等経費」「指導員経費」の支給制度あり
(b)振動障害者職業復帰促進事業特別奨励金
対象傷病振動障害
支給対象事業体の代表者
支給要件総構成員数が5人以上で、構成員の3分の2以上が振動障害者及び振動障害治癒 者の事業体が事業施設等
の設置を行おうとするとき
支給内容支給額は、事業施設等の設置に要した費用の3分の1の額
支給限度額は振動障害者・治癒者が35人の場合250万円、67人で400万円、8人以上は550万円
(c)長期療養者職業復帰援護金
対象傷病頚肩腕症候群・腰痛、頭頚部外傷症候群
支給対象事業主
支給要件対象傷病の長期療養者(おおむね1年以上休業し今後6ヶ月内に治癒が見込まれ る者)を事業主が再就労させ又は新たに常用労働者として雇い入れ、職種転換訓 練を実施したとき
支給内容 ・長期療養者就労援護金労働者に支払った1ヶ月の賃金の3分の1の額、支給
月数は6ヶ月、支給限度額8万円(中小事業主10万円) ・長期療養者職種転換訓練援護金月額25,100円、支給月数6ヶ月
(d)職能回復援護措置
対象傷病頚肩腕症候群・腰痛、頭頚部外傷症候群等
支給対象被災労働者
支給要件対象傷病の治癒者(12級以上の障害)で、技能習得を目的とした教習、講習等を 受けようとするとき
支給内容教習・講習費、交通費等を35,000円を限度で支給
(e)生業援護金
対象傷病限定なし
支給対象傷病年金・障害年金・遺族給付受給者
支給要件事業を営むため国民金融公庫等の金融機関から資金の融通を受けている者が、資 金の利子相当額の援護を受けようとするとき
支給内容利子相当額で限度額20,000円
(f)労災リハビリテーション作業所
施設目的健康管理を行いながら各種の作業に従事し、社会・職場への復帰を促進すること を目的とする。(全国に8カ所設置)
対象傷病脊髄損傷、両下肢に重度の障害を受けた者
支給対象被災労働者
入所要件労災障害等級3級以上の障害を有するか同程度の機能の喪失状態にあること、必 要な医学的リハビリテーションの課程を修了していること
支給内容入所期間中の宿泊料・食事料は有料、入所時に支度金5,000円が支給
イ、現行制度の問題点、改善方向
*現行制度は、振動障害者に手厚く各種事業が行われているが、他の傷病に対する支援事業が極めて貧弱であり、そのため事業の利用状況も極めて低くなっているという問題があります。
具体例は以下のとおりです。
*振動障害者のみを対象とした事業が設けられている趣旨は、振動障害者が社会復帰をする場合振動業務以外の業務に就く必要があること?や雇用機会が限定されていることとされているが、社会復帰や再就職の困難性という点では他の職業性疾病でも該当する場合がある。したがって、対象傷病を振動障害に限定している事業は、同程度に社会復帰が困難な傷病にも拡大すべき。
*長期療養者職業復帰援護金が対象傷病を治癒時の状態に関係なく頚肩腕症候群、腰痛、頭部外傷症候群のみに限定していることも、他の傷病との関係で均衡と公平性を欠いていると考えられ、他の傷病への事業の拡大が検討されてよい。労災保険制度での社会復帰促進事業が、失業者一般を対象とした雇用保険財源を基にした就職促進と異なり、労働災害の結果残存した障害等によって治癒後も被災以前の完全な労働能力の回復には至らないために、社会復帰が困難な場合に支援を行おうという趣旨である。現在の雇用情勢が厳しい下で、一般的に療養・休業が長期化すれば社会復帰が困難になっていくという現象があると思うが、例えば同援護金を傷病の種類、治癒時の被災労働者の状態に関係なく「長期療養者」というだけで事業の対象とすべきかは議論が必要である。
*労働能力を相当程度損失した労働者に対し社会復帰に必要となる職業能力回復訓練を行うことは、労働災害による労働能力の損失填補を行うことを目的とした労災保険制度の趣旨からいっても力を入れるべき事業である。しかし、訓練施設の機能を一部果たしているのは労災リハビリテーション作業所のみである。
*教習・講習費など援助する職能回復援護措置もあるが、事業主や国・自治体等が行う訓練から漏れ、それ以外の教習・講習(自動車教習等)を受講する場合に限定されており、労働能力の回復・社会復帰の促進という観点からは利用価値が低すぎる。
*労災保険特別会計は黒字といわれながら、雇用保険財源を基に行われる雇用促進に関わる各種助成金と比べても支援内容が貧弱である。被災労働者の労働能力の損失に対する補償を行い、雇用責任を果たすことが使用者責任と考えるなら、一事業場レベルでその責任が十分果たされない現状の下では、使用者責任を社会化し保険制度をもって全適用事業場を上げて責任を果たす趣旨で、社会復帰事業の抜本的拡充・強化にむけ様々な角度から検討が行われるべきである。
2) 一般就職促進対策との連携
安定行政が行う就職促進対策のうち被災労働者に関連する制度は、就職困難者としての障害者に対する各種就職促進施策です。
ア、現行制度の概要
(a)障害者の雇用義務(障害者雇用促進法)
各事業場に労働者数×障害者雇用率(民間1.8%、国・地方自治体2.1%)を乗じた人数を雇用する義務が課せられ、未達成事業場には障害者雇用納付金が徴収される。
(b)障害者雇用調整助成金
常時300人を超える労働者を雇用する事業主が、一定数の身体障害者等を雇用した場合に法定雇用者数を超える数1人につき25,000円の助成金が支給(300人以下事業場には報奨金の支給あり)
(c)特定就職困難者雇用開発助成金
特定求職者を継続雇用する労働者として雇い入れた事業主に対し、賃金の一部が助成される。重度身体障害者、45歳以上の身体障害者・精神障害者等の場合、支払賃金の3分の1(中小企業2分の1)の助成金を1年6ヶ月支給(短期間被保険者で同じ者は賃金の1/31/4を1年間)。
(d)障害者雇用継続助成金
雇い入れ後に労働災害や交通災害等で身体・精神障害者となった労働者を継続雇用するために必要な施設の設置・整備等を行った事業主に対しその費用の一部を支給。中途障害者作業施設設置等助成金と重度中途障害者職場適応助成金の2種類がある。
イ、現行制度の問題点
*各施策対象となる障害の程度については、「重度身体障害者」「身体障害者」「知的障害者」などの範囲について障害者雇用促進法に定義されている。障害の程度の判断は、地方自治体の障害者手帳で判断されており、自治体の障害等級1〜2級であれば「重度」、それ以外は「一般」の障害となる。労災保険法上の障害等級とはリンクしていないが、支給対象となる一般の身体障害者でも労災障害等級の7級以上に相当する。このように助成金支給対象の障害の程度が労災でいえば年金以上の比較的障害の程度が高い被災労働者しか該当せず、労災障害等級8級以下であっても労働能力の損失の程度から就職が困難なケースも考えられるため、労災障害等級とリンクさせる観点で制度の充実を検討すべきである。
*労働災害な?ど雇用中に生じた障害者むけの施策としては、雇用継続の条件整備に対する助成金のみであり、その点では、障害者を事業主が継続雇用することを促す助成制度を創設することも、労災被災労働者の就職促進を行ううえでは重要と考えられる。
3) 労災療養中の解雇制限規定など被災労働者が症状固定後も働き続けるための対策
労働基準法第19条(解雇制限)は、労働者が業務上災害によって休業する期間及びその後30日間は解雇してはならないと定めている。しかし、労災休業中に何らかの理由で被災時に雇用されていた事業場を被災労働者が何らかの理由で離職する例は、長期療養者ほど多くなっていく傾向にある。そうした離職者には実際に自己の意思で退職したケースもあると思うが、中には、会社にいづらくなって、会社から間接的に退職の勧奨を受けて離職した者、解雇を言い渡された者もいると考えられる。
被災労働者の社会復帰対策を検討する際に、基本的には、元の職場(事業場)への復帰が行われるよう、監督行政への情報提供により労基法第19条の規定に基づく監督・指導を強化すべきである。
第3章 適用業務に関わる諸問題について
全労働が第一線職場で実際に労災補償行政に携っている職員のアンケートでは、近年の労災各種給付請求書の処理にかかわって「業務上外の認定」についで「労働者性の判断」が複雑・困難性の要因とされています。適用業務にかかわっても「労働者性の判断」が、保険給付対象者、保険料の算定基礎となることから複雑・困難の要因となっていることが伺えます。なぜなら「労働者性の判断」基準が労災保険と雇用保険で一致していないことや、近年のさまざまな労働実態の変化により、その判断が複雑・困難化しています。
1 労働者性の判断について
一般に仕事をしていれば誰しもが「労働者」と考えるところではあるが、労災保険の給付にあたってはこの「労働者」を限定しています。労災保険法には、「労働者」の意義については明文化された規定はないが、労基法第9条における「労働者」を同一のものと解されています。したがって同法によって職業の種類を問わず、労基法の適用を受ける事業場に使用されもので、賃金を支払われているもの、と定義されている。賃金は、名称にとらわれず労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうと定義されています。
したがって、労働者であるかどうかは「使用される」者であるか否か、その対償として「賃金」が支払われているかどうかによって判断されるものです。名称にとらわれず、実態的に事業主との間に前述した労働関係が認められる限り、労働者とされています。
労基法ではきわめて明確に定義付けしていますが、実際の給付業務では、様々な判断基準が設けられています。
(a)「使用従属制」に関する判断基準では「指揮監督下の労働」に関する判断基準、報酬の労務対償制に関する判断基準、(b)「労働者性」の判断を補強する要素として事業性の有無、専属性の程度など近年においては様々な労働形態があり、労災の給付を行う上での判断はより複雑、困難化しています。 当面、労働保険においても、労災保険の労働者と雇用保険における労働者の範囲が異っているため給付や、適用業務で様々な問題を包含していることから、少なくとも、労働保険では労災保険における労働者の扱いと雇用保険の労働者を同一にすることによって、すべての労働者を救済する保険制度の確立がもとめられているのではないかと考えます。
2 特別加入制度について
特別加入制度については、アンケートにおいて、制度そのものを廃止すべきだ、という意見や、給付基礎日額のあり方、また、事務組合に対しての指導強化の意見も出されました。ここでは、特別加入制度のうち、組合員から多く意見が出された中小事業主と農業を中心とした特定作業従事者について触れることとします。
労災保険制度は、労働者の保護を本来の目的としており、労働者以外の者が労働者と同様に直接作業に従事して災害を受けても労災保険の給付の対象とならないのが原則です。しかし、その業務の実情、災害の発生状況等に照らして実質的に労働者に準じて保護するにふさわしい者がいるため、これらの者に対し、労災保険本来の建前を損なわない範囲で労災保険の適用を及ぼすこととされ、そのための特別の制度が労災保険に設けらました。これが特別加入制度です。
中小企業においては事業主も労働者と同様に直接業務に従事する場合が多く、ここでの被災に対して、労働者に準じた保護を行う法の趣旨は労働者の?みならず救済の対象を拡大した点では憲法の生存権に照らしても踏み込んだ制度として評価できます。
しかし、実際の運用面において(1)でも触れましたが、労働者性の判断が事務組合で難しいことから「とりあえず特別加入しておくように」というような対応が行われている事案や、自宅療養中における特別加入者の全部労働不能の判断と休業補償の必要性について疑問が多く出されました。また、農業における特定農作業従事者の特別加入制度は、本来、労働者数5人未満の農業は任意適用事業ですが、事業主が特定農作業従事者となった場合についてのみ、労働者数5人未満であっても強制加入事業になるなど、非常にわかりにくいばかりか、農業労働者の権利救済面からも問題があると考えられます。また、農業共済制度がある
中で、農業共済に一本化すべきとの声も出されました。
事務組合の申告書内訳を審査する中で、中小事業主の特別加入要件である労働者使用日数100日についても、実際、中小事業主や二元の建設事務所・農業の申告書内訳において数年間確定保険料額が0円=労働者使用実績なしにもかかわらず、特別加入が継続されている例も多く見受けられます。
特別加入制度の存否については、他の社会保険制度の動向も見ながら今後とも議論は続けていく必要はあると考えます。しかし、現状として、本来の制度の趣旨を踏まえ、制度の枠内で加入者、事務組合への明確な加入要件等の行政指導を細やかに行う必要があると考えられます。
3 その他の適用業務の問題について
その他の問題として、大きく3つの問題が挙げられます。
(1)事務組合制度の問題
事務組合制度は労働保険の全面適用の際、中小零細事業場を含む中小企業の数は膨大であり、これを行政がひとつ一つ適用することとすれば、行政経費がかさむ他、事業場の把握ができるの問題や、事業主の手続き事務軽減のため、そもそも「事業主団体」を活用してこれらの難題の解決を図ることとされ、労働保険事務組合制度が創設されました。
現在労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託している事業主は、全国で137万にのぼり、その数は、労働保険の全適用事業場の約46%に当たります。
また、取扱保険料は約4,817億円(平成14年度)で、全労働保険料額の約13%を占めています。事業主団体の種類別による労働保険事務組合数 平成15年3月末
│ 事業協同組合 │1,634 │
│ 商工会議所 │486 │
│ 商工会 │2,684 │
│ 商店街振興組合 │59 │
│ 小売酒販組合 │46 │
│ 生活衛生同業組合 │136 │
│ 社会保険労務士による団体 │2,581 │
│ その他の団体 │4,285 │
│ 合 計 │11,911 │
現在、労働保険の適用・保険料の徴収等の面で、労働保険事務組合は、大きな役割を果たしていますが、アンケートからは年更時の概算額=確定額、建設業の一括有期事業での不確かな業種の理解が多く感じられるところです。都道府県労働局が発足する以前は認可が知事と労働基準局長に分かれていたため、事務組合への監査指導体制はそれぞれの所掌が行っており、特別加入制度をはじめ、労災保険制度に対しての指導が不充分な面もありました、労働局発足に伴い、事務組合監査指導について労災保険制度の委託事業主への的確な指導並びに事務組合としての研修制度の充実が望まれるとともに、事務組合も専任職員の配置について求められるところです。
(2)適用事業の単位のあり方
適用事業の単位については事例集として示されていますが、個々の事業場の判断にあたっては、本社を管轄する署の判断に委ねられている点も大きく、事業の独立性がないと思われるものの継続事業の一括申請や、それに伴う成立届けの受付、入力に局署とも費やされているのが現状です。継続事業の一括申請に伴う事業場の適用単位については全国的な統一基準が必要と考えられます。
(3)研修について
最後に、適用徴収業務とりわけ適用についての研修である。適用は、労災の入り口となるところであり、適用誤りにより後になってから事業主との間にトラブルが発生するということも考えられることや、労働局設置後、現在多くの局において、業務混在化によ?り、安定系職員も労災適用業務に従事することや、また、建設業、林業においては作業工程の変化も多いことから、建設業、製造業にかかわらず、「作業の現場」を見る研修を実施すべきであると考えます。
第4章 労災補償行政をめぐる現状と問題点
1 労災保険の民営化等をめぐる情勢
(1) 総合規制改革会議の危険な検討方向
政府の総合規制改革会議「構造改革特区・官製市場改革ワーキンググループ」は、7月28日、労災保険の民営化等の検討を進めることを明らかにしました。
これまでの検討の中では、(a)未加入事業者が増大していること、(b)保険料率の算定根拠が不透明であること、(c)労災病院などの労働福祉事業の存在意義が失われていることをあげながら、「労災保険の対象とするリスクは民間損害保険と同質」などとして、労災保険を自動車損害賠償責任保険と同様に、保険認定や保険料徴収・保険給付等の事務を民間損害保険事業者等へ全面的に委託(事務移管等を含む)し、保険運営の効率化を図ることができるとしています。 また、高齢化や国民年金の空洞化が進行する中で、労働保険も含めた「広義の社会保険」全体として、保険料徴収・保険給付等に関する体制の一元化や民間への事務委託を推進することについても検討するとしており、労働行政の責任と役割の大幅な縮小をも招きかねない危険な内容といえます。
(2) 労災保険の民営化等の重大な問題点
総合規制改革会議は、「民間でできるものは官は行わない」という基本姿勢のもとで労災保険の民営化等の検討を進めようとしていますが、憲法で規定された「生存権」「勤労権」に基づく社会保障としての労災保険制度は、労使の立場を超えた公平な第三者として国が直接責任をもって運営する必要があります。
また、使用者の無過失責任を前提にした労災保険制度は「強制保険」制度を採用していますが、戦前、(恩恵的、救済的)扶助義務の履行とされていた災害補償が、労働基準法の制定と同時に労働者の権利とされてきたという歴史的な経過などもふまえるならば、国の責任において労働者の権利確保が図られるべきです。
さらに、労災保険制度は、費用徴収制度や保険料率のメリット制、過去の災害発生状況を反映した業種別保険料率の設定などにおいても、事業主の労働災害の防止や職業病の予防にむけた努力を促すことも目的としており、これらの運営にあたっては安全衛生行政や監督行政との一体的運営が不可欠といえます。また、保険給付の対象となる事業、労働者、平均賃金等も労働基準法を準用してるため日常的に監督行政等の連携が必要であることや労災保険給付の認定事務においても行政のきわめて高度な判断が求められる事案が多いこと等から、こうした事務を「民営化」することとなれば、適正かつ効率的な保険給付にも影響を及ぼしかねません。
総合規制改革会議は、民間保険会社等を活用しているアメリカ型の労災補償制度をめざしていると伝えられていますが、「競争」が進むアメリカでは、保険給付の対象とする労働者の範囲が狭かったり、保険給付の支給期間などが厳しい等という指摘もされており、労働者保護を前提とした日本の労災補償制度を、単に保険運営の「効率化」等を強調しながら「民営化」しようとする議論はきわめて乱暴といえます。
2 行政体制の確立について
総務省が8月29日に公表した労働力調査によると、本年7月の完全失業率(季節調整値)は、前月と同様の5.3%、完全失業者数は前年比10万人減の342万人で、依然高水準で推移しています。特徴的なのは、1年以上の失業者が過去最多の127万人(34.3%)にのぼり、完全失業者の3人に1人が1年以上の長期失業を強いられていることです。また、同調査の「月末1週間の就業時間」(本年4〜6月平均)では「週49時間以上」の労働者が増加しており、長時間労働の広がりを裏付けています。
失業期間の長期化によって多くの失業者が困難な生活を強いられている一方、多くの労働者が過労死・過労自殺を引き起こす長時間労働を強いられるという、いびつで非効率な社会が形成されています。
このような中で労働行政は、労働者・求職者の諸権利を十全に保障するために、法制・体制の両面から拡充をはかり、その期待に応えるべきですが、厚生労働省が8月29日に明らかにした2004年度新規増員要求は、都道府県労働局分で292人であり、前年度と比較し要求段階で2人の減(厚生労働省全体で138人減)となっています。これは満額査定されても計画削減(?△287人)を差し引けば、わずか5人の純増にすぎないことを意味しており、今日の労働行政の重要な役割の「否定」に等しく厳しく批判されるべきです。
全労働が行った労災職域組合員アンケートでは、給付の迅速・適正処理を行う上で必要な対策として「認定基準の明確化」と回答した組合員も68.4%と、「増員などの業務処理体制の拡充」(61.9%)を超え最上位となっており、認定基準をめぐる問題は現在職場が直面している最大の問題であることが明らかとなりました。私たちは、今、国民の前にあるべき労災補償行政の姿のを積極的に示していくためには、業務量を迅速・適正処理を進められる行政体制の確保が求めらています。
労災保険制度は、全ての人間が人間らしく幸福のうちに生きる権利(憲法第13条「幸福追求権」)、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法第25条「生存権」)、人たるに値する労働条件の下で人間らしく働く権利(憲法27条「勤労権」)を具体化したものであり、「憲法の理念とりわけ生存権理念に立脚して展開されるべき」との考えを、全労働は過去の行研活動の中で打ち出しています。こうした憲法理念に立脚した労災補償制度の考え方は、総合規制改革会議が検討している「労働保険事業を民間の保険会社に開放する」考え方とは真っ向から対立しています。いま、わたしたちは改めて国が憲法理念に基づき行
う労災補償制度を多くの労働者・国民と検討し国民のための労災補償行政の確立をめざします。