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サービス残業・長時間労働を生み出す構造とあるべき改革方向
中央行政研究レポート【監督職域】(その1)

第1章 問題意識と研究目的
-全国の労働基準監督官1147名から意見を集約-

(1)労働基準法違反ともなり得るサービス残業が後を絶たない。しかも、そのことが長時間労働の温床となり、過労死、過労性疾病を引き起こしていると指摘されている。ナショナルセンターある連合、全労連は、ともに「サービス残業の根絶」を重要な課題に位置づけとりくみを強めている。また、各種マスコミも蔓延するサービス残業・長時間労働に焦点をあて、それを強いられる労働者やその家族の悲痛な声や労働行政の対応に多くの紙面を割いている。今やサービス残業や長時間労働の横行は大きな社会問題となっている。
(2)これに対して、政府は労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(1992年7月2日法律第90号)(以下、時短促進法)に基づき、「労働時間短縮推進計画」(1992年10月9日・閣議決定)を定め、労働時間の短縮のための諸施策を進めている。また、厚生労働省(旧労働省を含む)では、時間外労働に焦点をあて、「所定外労働削減要綱」(1991年10月9日・中央労働基準審議会了承)を策定し、時間外労働の縮減にむけた指導を行っている。
(3)厚生労働省が2001年4月に示した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」は、使用する労働者の始業・終業時刻の把握義務を明確にしたほか、労働時間の自己申告制の不適正な運用がサービス残業の温床となっていることをとらえ、適正化にむけた措置を求めている。また、同省が2002年2月に示した「過重労働による労働者の健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置等」では、長時間労働と脳・心臓疾患との関連性に着目しながら、時間外労働の縮減と健康管理の徹底を事業者に求め、加えて、裁量労働制対象労働者や管理監督者の「過重労働」にも言及し、間接的ながらこうした労働者に対しても労働時間管理の必要性を明らかにしている。
(4)しかしこれらの施策は、行政体制の不十分さゆえに、現実に起きている深刻な事態に対応し得ているとは言えない。それが実際の監督指導を行っている監督官の率直な感覚である。厚生労働省は、2002年12月13日、全国の労働基準監督署が行ったサービス残業に対する指導状況(2001年4月から翌年9月)をはじめて明らかにしたが、是正勧告によって100万円以上の遡及払いのあった企業は613社にのぼり、その総額は81億3818万円(対象労働者は7万1322人)であったという。その後も同様の指導状況が随時発表されているが、これらの数字は氷山のほんの一角でしかないことを現場の監督官は感じている。
(5)全労働はすでに第20回行政研究活動(1992年3月)で、長時間労働・サービス残業が広範に存在する事実とそれをもたらす要因に「労働時間の自己申告制」と「自己申告を『自粛』させる人事管理・企業風土」があること等を実証してきたが、その後の労働時間法制の相次ぐ見直しやリストラ(人件費削減等)の進行を背景に、今日、様々な態様(疑似裁量労働制、名ばかり管理職など)のサービス残業が広がっている。
(6)本レポートは、この間とりくんだ「監督官アンケート」(全国の労働基準監督官1,147名から集約調査期間2003年1月3月や労働者アンケート全国の民間労働者1,755名から集約、調査期間2003年1月3月)の結果等によって、長時間労働、サービス残業の実情とこれを生み出す構造(法制上の問題点等)を明らかにしながら、あるべき労働行政としてのアプローチを提示する。

第2章 わが国の労働時間の実情

1公的な統計から見る長時間労働・サービス残業の実情
-サーピス残業が広く存在することが国が行う統計からも明らかに-

政府が労働時間についてとりまとめている代表的な統計としては、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」と総務省の「労働力調査」がある。
「毎月勤労統計調査」は「事業場」を対象に常用労働者の雇用と賃金の変化を把握し、ており、1993(平成5)年から「常用労働者」と「パートタイム労働者」を分離して集計している。
「労働力調査」は「世帯」を通じて毎月末日に終わる1週間の活動状態を調べること、によって失業状況や当該週の労働時間等を把握している。
「労働力調査」(2001年)によると、非農林業雇用者のうち週49時間以上働く男性は36%、女性は12%、さらに週60時間以上働く男性は17%、女性は3.6%となっている。
この週60時間という水準は、週の法定労働時間が40時間であることから考えると、一ヶ月に80時間以上の時間外労働を行っていることとなり、後述する平成14年2月12日基発第0212001号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」で示された「過重労働による健康障害の危険が極めて高い者」に該当する数字である。つまり、男性労働者の6人に1人が過労死の危険のある長時間労働を行っていることになる。
一方、「毎月勤労統計調査」(2001年度)の「常用労働者」について見てみると、事業場規模5人以上の調査産業全体で総実労働時間月間152.6時間、もっとも長い「鉱業」で月間171.2時間といずれも実労働時間が法定労働時間よりも低くなっている。
このような「毎月勤労統計調査」と「労働力調査」で「差」が生じる原因は様々に考えられるが、「毎月勤労統計調査」では調査対象を「事業場」とし、回答が事業主のフィルターを通されているのに対し、「労働力調査」では調査対象を「世帯」とし、労働者からの直接の回答を得ている点が大きく影響しているのではないだろうか。とすれば、「労働力調査」がより現実に近い実態を示しているということになろう。
そして、この「差」の一部は、事業主が労働時間として把握していない時間、つまり割増賃金に反映されない、いわゆるサービス残業であると考えられるのであって、サービス残業が広く存在することが公的な統計からも窺える。

 

図1

図2

2アンケート結果から見るサービス残業の実情
-臨検監督の中で監督官はサーピス残業を頻繁に見かけている-

全労働が行った「労働者アンケート」では「過去1ヶ月(直近の賃金支払期間)間に、時間外手当・休日手当が支払われなかった労働時間がありましたか」との問いに対して、「ある」との回答は32.5%に及び、労働者の概ね3分の1がサービス残業をしていたことを窺わせる。また「ある」と回答した者にその時間を尋ねたところ「10時間以内・32.8%」「1020時間・30.9%」「2030時間・15.3%」「3040時間・6.7%」「4050時間・3.2%」「50時間以上・9.5%」などとなっており、約7割が10時間以上のサービス残業をしていたことになり、約1割は「過労死」危険ラインである「45時間」を越える「50時間以上」のサービス残業をしていたことになる。
同じく全労働が行った「監督官アンケート」では「これまでの臨検監、督の中でサービス残業と考えられる事案がありましたか」(【注】参照)との問いに対して「よくある・31.3、%」「ときどきある・45.4%「たまに」ある・19.2%」「ない・1.3%」という回答が得られた(図1参照)。
ほとんどの監督官が臨検監督時にサービス残業にあたる事例に一定の頻度で遭遇していることが窺える。もとより臨検監督は労働条件上の問題を抱えると想定される事業場を対象とする場合が多いから、その点を割り引いたとしても、高い頻度でサービス残業を目にしているといえる。
なお、連合の「2002年連合生活アンケート」が、サービス残業に関する調査を行っている。これによると、概ね4人に1人が月の半分以上サービス残業をしていると回答しており、同様に高い比率でサービス残業が存在していることを示している。
「監督官アンケート」ではサービス残業の形態にも着目している。「サービス残業の『形態』でよくあると思うものは何ですか」(3つ以内)との問いに対して、「労働時間を把握していない・73.3%」「自己申告制の不適切な運用・72.7%「時間」外労働手当の定額制(足切り)・70.3%」「管理監督者の範囲の不適切な運用・60.9%」、「端数時間(分単位等)の切り捨て・30.2%「事業場外みなし労働制の不適切な運用・19.0%」「仮眠時間・手待ち時」間の不適切な運用時間・13.0%「年俸制の不適切な運用・11.5%」「裁量労働制の不適切」、な運用・9.3%」となっており「サービス残業」と一言で言っても、実に様々な形態があ、ることを示している(図2参照)。
【注】「監督官アンケート」にあたって、「サービス残業」は「時間外労働に対して必要な賃金が支払われないこと(但し、割増賃金の算定基礎の誤りを含まない)」と定義した。従って、近時、厚生労働省が用いている用語である「賃金不払残業」と同義である。

第3章 労働基準行政の取り組みと課題
-長時間労働やサービス残業を解消するための指針や通達が相次いで発出されている-

労働基準行政が、長時間労働やサービス残業の解消が重点課題と位置づけられていることは行政運営方針などからも明らかである。
近年では、長時間労働やサービス残業を抑止するための指針や通達が特に多く発出されている。その代表的なものとしては、
(a)平成11年2月17日基発第70号「今後における一般労働条件の確保・改善対策の推進に関する基本方針について」
(b)平成13年3月31日基発第280号「当面の労働時間対策の具体的推進について」
(c)平成13年4月6日基発第339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」
(d)平成13年10月23日基発第928号「所定外労働削減要綱の改定について(所定外労働削」減要綱)
(e)平成14年2月12日基発第0212001号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」
などであるが、加えて、本年5月23日には「賃金不払残業総合対策要綱」と事業場にお、いてとりくむべき措置を明らかにした「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」が取りまとめられている。
これら通達のうち、(d)が所定外労働時間の削減のための基本的な考え方を示しており、(a)と(b)が監督指導の具体的な手法等を、さらに(c)と(e)が監督指導の具体的な基準等をそれぞれ示している。また、労働時間の短縮に向けた環境整備のための施策としては、時短促進法に基づく各種補助金制度等がある。これらの施策は、同法4条1項を根拠とする「労働時間短縮推進計画」(1992年10月9日・閣議決定、2001年8月3日改定)を具体化する形で行われている。

第4章 長時間労働・サービス残業を生み出す原因は何か

1長時間労働とサービス残業の関係
-サービス残業は、際限のない長時間労働を助長する重大な要因-

「長時間労働」は、一般に法定労働時間を超えた労働であることから、法定労働時間を超えた部分に対して割増賃金の支払いが必要となる。しかし現実には、その労働時間に相当する割増賃金が支払われていない場合がある。その中には「管理監督者の労働時間規、制の適用除外」「専門・企画業務型裁量労働時間制」等によって合法的に割増賃金の支払いを免れている場合もあるが、前述のとおり「サービス残業」となっている場合も少な、くない。
一方サービス残業とは一般に所定労働時間を超えて労働したにもかかわらずその超えた労働時間について所定の割増賃金あるいは賃金が支払われないことをさし、多くの場合、労働基準法37条(あるいは24条)違反となるが、必ずしも「長時間労働」とは限らない。
しかし後述するとおり、割増賃金制度は、使用者に対して一定の負担(割増賃金の支払いを課すことによって長時間労働を抑制する制度であるからこれを無視するなら「長時間時間」への抑制が働かないことになる。まして「サービス残業」は、時間外労働に対して割増部分のみならず一切の賃金を支払わないのであるから野放図な長時間労働を招来する可能性がきわめて高い。
要するに「サービス残業」は際限のない「長時間労働」を助長する重大な要因と位置、づけることができるだろう。こうした両者の関係に留意しながら、長時間労働、サービス残業を生み出す原因を、法制(行政運営を含む)上の要因と社会的な要因の両面から、さらに考える。

図3

図4

2長時間労働を生み出す法制(行政運営を含む)上の要因
-実効性が問われている労使協定制度と機能不全の割増賃金制度-

労働基準法では、長時間労働を抑制するため、1日8時間、週40時間の労働時間の原則を規定し、これを超えて時間外労働を行わせるには、原則として「時間外労働に関する協定の締結・届出「割増賃金の支払い」が必要であると規定している。換言すれば、時間外労働を抑制する制度的な担保として「時間外労働に関する協定制度」と「割増賃金制度」がある。長時間労働の横行は、これら二つの制度が十全に機能していないことの裏返しであり、両制度の問題点を中心に長時間労働を生み出す法制(行政運営を含む)上の要因を明らかにする。また、時短促進法に基づく時短援助事業の問題点についても指摘する。

(1)時間外労働に関する労使協定制度の問題点

使用者が法定労働時間を超えて労働者を使用するためには、労働基準法36条に基づく時間外労働に関する協定を締結・届出する必要があり、本来、これが時間外労働の歯止め=上限設定となっている。しかし、必ずしもそのとおりに機能していないのであってその要因としては次の諸点を指摘できる。
(a)労働者代表の選任手続き時間外労働に関する協定制度は、本来、事業場ごとの時間外労働の上限の設定を当該事業場の実情を最もよく知る労使による対等な交渉・協議に委ね、これによって適切かつ実効ある水準を設定しようと言うものである。しかし、実際の制度の運用の中でこのような趣旨が十分に活かされず、実質的な交渉・協議なくして協定・届出がされていることが多いのではないだろうか。
「労働者アンケートによると」、「あなたの職場・企業では『時間外労働に関する協定(いわゆる三六協定)』が結ばれていますか」との問いに対して、「締結されている・37.4%」「締結されていない・12.8%」「よくわからない・46.8%」との回答が得られている(図3参照)。つまり、労働者の半数近くが自ら働く職場に「時間外労働に関する協定」が存在しているかどうかすら知らないのである。労働基準法106条は当該協定や就業規則等の周知義務を規定しているが、職場に「備え付けること」で足りるとされていることも一つの要因であろうが、協定が締結されているのであれば、労働者代表の選任に関わっている場合が多いであろうから、多くの職場で協定が適正に締結されていないことを窺わせる結果でもある。
また、先の問いで「締結されている」と回答した者に対して「協定の、労働者側の当事者を知っていますか」と尋ねたとところ、59.1%が「知っている」と回答しているものの、36.1%が「選任に関わっていないので知らない」と回答している(図4参照)。
労働基準法施行規則6条の2では労働者代表の選任について、「法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でない」ことと「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること」の2つの要件を定めており、この要件に該当しない労働者代表と締結した協定、は効力がないとされていることから、「選任にかかわっていないので労働者代表を知らない」との回答を得たケースでは当該協定の効力に問題があることとなる(過半数を組織する労働組合があり、かつ回答者が当該労働組合の組合員でない場合等は、選任に関与していないことになるが稀であろう。)
本来、このような協定については協定届が監督署長に提出された段階で、労働者代表が適正に選任されているかを確認すべきものとも言える。
しかし、現実には、年間を通じて膨大な数の協定届が提出され、そのうち一定数は郵送で提出されることから、現在の行政体制の中では、協定届の記載に特段の問題が認められなければ、その真偽を確かめるための実態調査を行うことなど不可能な状態である(一般に、労働者代表の「選任方法」の欄には「労働者全員の投票によって選任」「全員の挙手、によって信任」等の文言が記されている)。また、協定届を持参した者とのやりとりができても、使用者の命を受けて持参する者が、使用者に不利なことを認めることは考えにくく、あるいは協定届の内容をよく理解していないことも少なくない。
要するに、協定当事者が労働組合である場合は格別、労働者代表を選任する場合にはその手続きが適切に行われていない状況が広く認められるのであって、そのことが先に指摘した時間外労働に関する協定制度の趣旨を失わせていると言えるだろう。
(b)協定届に対する事業主の意識
厚生労働省告示である「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(以下、限度基準)については、1998年の労働基準法改正によって36条2項にその根拠が規定され、同3項で協定締結にあたり労使は「限度基準」に適合するようにしなければならないこと、同4項で行政官庁(労働基準監督署長)は、「限度基準」に関して労使に対し必要な助言及び指導を行うことができることとされた。実際、監督署に提出される協定届の多くはこの「限度基準」が示す限度時間の範囲内で「延長することのできる時間」を締結していることが多く、「限度基準」に反するとして指導するケースはそれほど多くはない。
しかし、現実には「限度基準」に従った協定届が締結された事業場においても、協定で締結した「延長することができる時間」を超えて時間外労働を行わせているケースが後を絶たない。協定届を「形式的に提出しておけばよい」という意識が事業主にあるのではないだろうか。とりあえず協定届を監督署に提出しておけばよく、現実に協定時間を超える時間外労働をさせたとしてもたいした問題ではないと考えている事業主が多いと感じる。その背景には、時間外労働に関する協定制度なかんずく「限度基準」制度のわかりにくさがあるのではないだろうか。
労働基準法32条違反となる行為は、協定に定める「延長することができる時間」を超えて時間外労働を行わせる行為である。つまり、同じ時間の時間外労働を行わせても、協定時間の定めの違いによって法違反となったりならなかったりするわけである。このような考え方は、一般には判りにくいだろう。法違反を指摘されたとしても、協定・届出という単なる手続きを怠っていただけだという意識になっている場合も多いのではないだろうか。このため、協定届の内容を遵守するという意識が薄れ、その結果、これを超えた長時間労働を引き起こしているのではなかろうか。このことは、「監督官アンケート」でも、「長時間労働解消のために必要と思うことは何ですか」との問いに59.0%が「事業主の意識改革」と回答していることにも通じよう。
(c)「限度基準」の問題点
「限度基準」はその内容自体にも問題がある。
「限度基準」が定める限度時間は、労働基準法に根拠をおくものの、これを超えた「延長することができる時間」を協定・届出したとしても、直ちに罰則が適用されるわけではない。監督署は「限度基準」に反した協定届が提出されても、指導を聞き入れずに受理を求められれば、これを拒否することはできない。「限度基準」に反した内容の協定も「有効」なのである。
これでは、「正直者が馬鹿を見る」ような制度と言えないだろうか。
もっとも、このような「限度基準」に反する協定届の提出を強行する事業主はそれほど多いわけではない。その要因の一つは「限度基準」自体に多くの例外が許されている点にある。
まず、「限度基準」は、いわゆる特別条項によって、「限度基準」が定める限度時間に即した「延長することができる時間」に加えて、「さらに延長するのできる時間(特別延長時間)」を決めておくことを許容している(特別延長時間に上限はない)。
この点で、厚生労働省は昨年10月22日に「限度基準」の一部を改正し、「特別延長時間まで労働時間を延長することができる回数を協定するものとし、当該回数については、特定の労働者について特別条項付き協定の適用が1年のうち半分を超えないものとすること」と定めた。
この改正は、特別条項の運用を「臨時的なもの」に限定する趣旨と説明されている。しかし、そもそも平成3年10月9日に策定された「所定外労働削減要綱」によれば、「所定外労働は臨時、緊急のときにのみ行うもの」とされているのであり、「例外」である所定外労働のさらなる「例外」である「特別条項の運用」が1年のうち半分まで許容されている」というのでは、「原則」が何なのかを疑われても仕方がない。特別条項の運用にまで至らない所定外労働なら、年中させていてもかまわないと言っているのと同じだからである。この度の限度基準の改正を見て、特別条項のさらなる「活用」を思い立った事業主も少なくないのではないだろうか。
「限度基準」は、特別条項を適用する場合の手続きも必ずしも明確でない。
このため、中には使用者の一方的な「通告」で特別条項を適用できるような協定も存在し、「限度基準」に即して定めた「延長することができる時間」が、実際には全くの「絵に描いた餅」となっているケースも見受けられる。
また、「限度基準」が適用されない事業・業務も広範に認められている。すなわち、「工作物の建設等の事業」「自動車の運転の業務」「新技術、新商品等の研究開発の業務」については適用自体が除外されている。このうち、自動車運転手については別に「改善基準」が設けられているものの、「限度基準」を大きく緩和したものであるし、その他の事業・業務も長時間労働が指摘されている分野であるにもかかわらず、協定の締結にあたって何らの基準もないのである(「労働力調査」によれば、「建設業」の労働時間は「45.4時間/週」、「技術者」の労働時間は「48.2時間」といずれも上位に入っている)。
このため、「限度基準」が適用される範囲は意外と狭いものとなっている。

(2)割増賃金制度の問題点

法定労働時間を超えた労働、深夜時間帯における労働、あるいは法定休日における労