働き方・労働法制 -労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

労働基準監督業務の民間委託の検討に関する意見

2017年3月14日 全労働省労働組合

政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学大学院教授)は3月9日、「労働基準監督官の人手不足のため事業場に対する十分な監督が困難な状況」を指摘し、労働基準監督業務の民間活用の拡大を検討する作業部会であるタスクフォース(主査・八代尚宏昭和女子大学特命教授)を設置することを決定した。また、複数のメディアはこの決定に関して、労働基準監督業務(企業への立ち入り業務)の一部を社会保険労務士等の民間事業者に委託する方向が検討されていると報じている。 しかしながら、こうした社会保険労務士等の活用は、以下に掲げる理由から、労働者の権利保障を脅かし、公正な行政運営を損なうことから、行うべきでない。

1 労働関係法令の違反状況等を確認し、その是正を求める労働基準監督業務は、強制力を背景にした関係職場への立ち入り、関係書類(電子データを含む)の閲覧、関係者への尋問等を通じてきめ細かく実態を明らかにしていく作業が不可欠であるが、権限のない社会保険労務士等の調査では実効性の確保が難しく、話を聞くだけで終わってしまうおそれがある。
こうした不十分な立入調査であっても、やらないより、やった方がよいと考える意見もあり得るが、当該企業に「これで済むのか」「改善は必要ない」との誤解を与えてしまい、むしろ有害と言える。なお、違法駐車の確認を行う「駐車監視員」を例にあげて民間活用を進める意見があるが、駐車違反は一目瞭然だが、労働基準関係法令違反の事実を確認する作業は、適切な権限行使と専門性を備えた判断が不可欠であり、同一視すること自体、不適切である。

   

2 労働基準監督官は、立入調査(臨検監督)の際、労働者の安全確保、権利保障の観点から、即時に権限(安全衛生分野を含めた行政処分や捜査着手)を行使しなければならない場合も少なくない。そのような権限行使が必要であるにもかかわらず、それをしない場合、労働者の安全・権利を十全に確保できないばかりか、労働基準監督官が赴く企業との公平性も担保できない。

3 社会保険労務士等の調査を企業が拒否した場合、後日、監督官による調査を実施することも考えられるが、これでは事前に監督官による調査(臨検監督)を予告したことと同じであり、監督業務の実効性を損ない、有害である。

4 企業の立入調査に赴く際には、当該企業の事前の情報収集が重要であるが、行政システムに蓄積された多様な情報(違反歴を含む)を、契約上の守秘義務しかない社会保険労務士等と共有することは、まったく不適切である。  また、企業は厳格な守秘義務のない社会保険労務士等に対し、センシティブな企業情報を明らかにするとは考えにくく、この点でも監督業務の実効性は乏しい。

5 開業又は開業予定の社労士が企業に赴く際、営業活動(顧問先企業の開拓等)と一体化するおそれがある。この場合、営業活動の相手方である企業を厳しく調査することは期待できず、当該調査は有害である。

6 近時、一部の社会保険労務士は「労働基準監督官対策」を宣伝文句に営業活動を展開しているが、こうした社労士が労働基準監督業務の一部を担うことで著しい利益相反が生じ、有害である。

7 多くの社会保険労務士は、労働・社会保険手続の代行業務や労務管理に関するコンサルティング業務等を通じて重要な社会的役割を果たしている。しかし、そこで求められる専門性は、司法警察権限を含む権限行使を常に念頭に置き、事業主との厳しく対立する関係の中であっても、法令の厳格な運用が求められる労働基準監督官の専門性と大きく異なり、安易な業務の代替は行政運営の変質を招くおそれがある。

政府は今日、「働き方改革」「過労死ゼロ」を掲げながら、必要な法制、施策の検討・実施を急いでいるが、どんなに優れた法制、施策も、それを推進する専門職員が適切に配置されていないなら画餅に過ぎない。
他方、労働基準行政職員は2017年度も43名が削減されており、圧倒的に不足している。こうした中で検討が開始された監督業務の民間委託は、労働基準行政職員を増やさない口実にすらならないばかりか、きわめて有害であることから、高い専門性を備えた労働基準行政職員を直ちに増員すべきである。

 

以 上

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